にこって笑ってはいおしまい



いきなり俺を襲った鋭い痛み。イカレた笑みを浮かべる少女。俺の中で湧き上がる憎悪。喚き叫ぶ少女。「あはっ!これでリボーンの世界に行けるのね!」その言葉を俺は忘れる事はできそうにない。


まあ、そんな前世の記憶をバッチリ持ったお兄さんはこの世に産まれおちたワケ。しかもイタリア。いやあ、苦労の連続でさあ…まさか3歳でマフィアに売られるとは思わなかったんだなー。まあ、俺は人生経験値が周りより高いし、一番の古株、あ、人体実験の中の被験者で最年長って意味ね?、一番古株でいつの間にかリーダーになっちゃってたんだな!お兄さん超びっくり。
んで、俺的には子供は絶対的庇護対象なんだよね。これでも前は弁護士になりたかったからさ、弱者は守るべきだって思ってるんだ。で、まあその人体実験をやっちゃってるマフィアを潰しちゃったんだな。勿論計画的な犯行ですが何か?
その後、生き残りの中である子達を見つけてね、俺、気付いちゃったんだよ。此処が俺の知ってる世界だってね。君もなんか叫んでたし。その後生き残りの子達3人と助けあいながら生きてきたんだ。俺の弟達。骸に千種に犬、大好きな家族。家族って言っても苗字全員違うし血も繋がって無いけどな。
だいぶ端折るけど、まあ、流れに流れて俺らはフリーの情報屋になりました。はあ?ランチアのファミリーを潰したはずぅ?…そんなリスクの高いことしないから。骸達にもそんなことさせねぇし、ランチアは良い仕事仲間だし。マフィアは嫌いだけど礼儀はわきまえるよ、恩を仇で返すのはいただけないだろ。復讐者とか嫌だし。
まあ今回は、ボンゴレ九代目からの直々の依頼だったから来たんだ。自称ボンゴレの姫である乙女子を何者か調べあげて、事によっては処分しろってね。
それで俺歳サバ読みまくって転入してきた。成人なのに。いやーびっくりしたよー。だって乙女子があの時俺を刺したイカレた女だったんだからね。悲しいことに、見た目変わってても一発でわかったし。骸曰わく、その時の憎悪が魂に刻まれてるんだってさ。せっかく君の事忘れられそうだったのに、本当に最悪。

だからね、仕事ついでに復讐してやろうかと思って。

君戸籍もないし、一般人のふりしたバケモノだし。穴だらけで正直楽勝だったね。幾ら見た目が美しくても、やってること阿婆擦れビッチ。一部…沢田綱吉、獄寺隼人、山本武からはバカみたいにモテてる。それに比例して周りの好感度は最悪だったから、ちょっとつついただけで崩れる崩れる。君がバカで助かった。……は?ぎゃくはーほせい?知らんわそんなもん。
あとは君が気づかないように、俺が君に好意を持ってる噂を流すだけ。俺は君と一言も話さないで、情報収集と言う名の傍観してただけで、勝手に君が勘違いしてたんだ。ラッキーなことに、今世はイケメンに属せる容姿だったから、ちょっと笑っただけで君が釣れたし楽勝。ぶっちゃけつまんない。



「わかったかな?乙女子ちゃん。」

空が青い。今日は快晴で、雲一つ無い。屋上だからか風が強い。

「な、な、んで…名前く、ん」

さっきまで気持ち悪いくらいニヤニヤしてた乙女子ちゃん。告白でもされるとか思ってたんだろう、考えただけで反吐が出る。なんておこがましい女なんだろう。
今は青ざめてるけどね。ああ、意味はわかってないけどヤバいのはわかるんだね。今更遅いのに。

「名前くんだなんて気安く呼ばないでくれる?てか、これだけ言ってもわからないだなんて、乙女子ちゃんは相当なバカだね。」

目の前の女を鼻で笑ってやる。君の所為でどれだけ自分が苦労したかなんてわからないだろう。今、得られたものも確かにあったけれど、失ったものもある。前世が、あの世界が、家族が、友人が、先生が、あの街が、あの家が、今でも自分は惜しいのだ。

「名前兄さん」

すぐ側の空間がゆらりと揺れ、姿を現したのは俺の家族の骸。出てきたと同時に骸の幻術が解け、俺の姿は中学生から元の成人男性に戻る。

「骸お疲れさん、幻術ありがとな」

「いえ、これくらいどうってことはありませんよ」

年相応に笑う骸の頭を、わしゃわしゃと雑に撫でる。この女が望む原作の通りだったら、きっと骸はこんなふうに笑ってはくれなかっただろうし、復讐者の牢に入れられて此処には居られなかっただろう。そんなの許さない。家族は俺が守る。

「ろ、六道骸…!」

「僕は苗字骸です。気安く呼ぶな。」

殺気を乙女子ちゃんに向ける骸。確かに血は繋がっていないし、苗字も本当は違う。でも俺は骸にも千種と犬にも、俺の苗字である苗字を名乗れと強制したことは一度も無いし、兄と呼べとも言ったこともない。嬉しいことに、骸達がそう呼ぶことを選んだ。だから今こうして苗字骸と名乗ったのだ。……弟よ、お兄さんは嬉しいぞ。

「はー、とりあえず、うん。」

乙女子ちゃんに閉じたファイルを思いっきり、力の限り振りかぶって顔面にぶつけてやった。勿論角がぶつかるようにな。
俺が乙女子ちゃん殺すと思った?そんなことしないよ、したら乙女子ちゃんと同じになっちゃうじゃん。

でも並盛と黒曜全域とその周辺地域。あと裏社会全域に乙女子ちゃんの情報をバラまいてあげた。一般には戸籍が無いこと等を、裏社会には天下のボンゴレの十代目候補に巣くったバケモノ、ってね。明日から侍らせていた沢田綱吉達を含め、並盛中生全員に嫌われ、世界中のマフィアから疎まれ嫌悪される。うん、確実に昼間外出歩けないね。それで最期は……考えるだけで恐ろしいだろ?俺は助けないよ。

これは復讐なんだから。

「はい、おしまい。骸帰るよー」


晴れやかな青空の下、男は美しい笑みを浮かべ少女の終焉の始まりを告げたのでした。






fin.












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