さくらんぼふたつ切り離せ


私は考えていた。先日空から天女だと自称する彼女が落ちてきた日から一月ほど、ずっとずっと。
神聖なる天の国から落ちてきた彼女は何で性の象徴であるはずの胸を保持しているのか、と。




私の出身は忍術学園から山を十数個離れた場所にある山奥の村。
よく言えば戦に巻き込まれない、平々凡々な毎日を過ごせる村だけれど、悪く言えば娯楽も目ぼしいものもないど田舎。

村人を養えるだけの食料なら十二分にあるから村の外に行く必要もなく、そんな村にたまに立ち寄るなんてのは旅商人程度。結束の強い、閉鎖された村。そんな場所だったからだろう。信仰心がむだなほど厚かった。天の国は清らかで、そこに住む方々も清らかなのだと信じて毎日毎日飽きもせずに信仰。
そして私も、例え前世の…平成の記憶を持ってたとしてもそんな村で生活してたから、小さい頃から両親共々村信仰心深く、毎日欠かさず神様に祈りを捧げていた。まあ、この忍術学園に来るまでなんだけど。

忍術学園に来てからは村よりは世界を見渡せるようになって信仰心は薄くなってきた。とは言えそれでも今だに、天の国は清らかな場所だと信じてる
『性』という穢れがあるからこその生き物であって、天の国にはそんな穢れはないと。(まあ正直言うと彼女に疑問をもつ以前に、『天女』とかいう性別のはっきり分かる存在が天の国にいること自体に疑問を持っているけれど、今はその話は置いておこう。)

しかし。天女様だと自称する彼女は女の性の象徴であるものを持っている。しかもそれを見せ付けるように忍たまに擦り寄せ魅了し、くのたまからから嫉妬と憎悪の視線を向けられてるのに気を良くしてさらには煽るように忍たまを誘惑する。

天の国から来たというには、明らかに穢れのある彼女は本当に天の国の存在なのか。
それとも私の天の国へのイメージが神聖化しすぎてるだけで、実際のところ天女、というか彼女のような方たちばかりいるのか…。


もしそうだったら天の国を身近に感じる反面、今までみたいに信仰心厚く拝みたくはない
むしろ体張ってでも村の皆の神様信仰を止めさせる、絶対






そんな事もあり、ともかく私は考えた。ひたすらに考えた。


彼女は本当に天の国におわす天女様なのか
本当にそうなら天の国は彼女のように『性』を持つ私たちと同じく穢れを持つ人たちがいるのか


疑問を持ってから一月、そして気になりすぎてなら証拠か何か調べようと、本格的に疑問解決に乗り出してから七日。ようやく私はある事に気付いた…あれは、




「やっとわかった…あれはきっと偽乳だよ、雷蔵。三郎。」



天女様を観察中、いつの間にか傍にいた雷蔵と三郎に話しかける


二人はそんな私に呆れ顔で、ぽつり


「…名前」

「久しぶりにやけに真剣に悩んでると思ったら…」



そんな事かよ、とわざとらしく大きなため息をつかれて少しむっとする


「そんな事って失礼じゃない?」


もしかしたら私と私の村の信仰心を左右するくらいの事なのに。


「だってなぁ、名前以外のくのたま達がくのたまで唯一の六年生の子を中心に天女様暗殺を企ててるらしいじゃないか」

「なのに同じくのたまなはずの名前は天女様の胸がどうとかって事で真剣に悩んでるなんて、ねぇ」

「暗殺なんて仕事じゃない限りやりたくない。
それよりも今の私の興味はもっぱらあの天女さまの胸。」



遠くで忍たま上級生と楽しそうにはしゃぐ少女に視線を凝らす。

ぷるんっと張りのある動きを見せるそれはこの時代の人間ならまず間違いなく騙されるだろう。だけど平成の平和な世の中の中で、貧乳に悩まされ続けてた私の目を舐めないでいただきたい



「昔愛用してたのに形が似てるし、あれはやっぱ偽乳だと思うんだよね」


ぷるぷるした見た目もそっくりな偽乳を平成の時の貧相すぎるくらい貧相な胸を持ってた私も数年間愛用していたからこそ、天女様の胸の揺れる動きが本物の胸とは少し不自然なところを見抜け、九割り五分くらいは偽乳だと推測は出来たのだが、断言まではできない。

それさえ出来たら、彼女が性を持つフリをしてるだけで、やはり天の国は性の穢れのない清らかな存在なのだと納得できるのに。




「どうやって確かめようかなー…」



水をかけて着物を透かす?いや水をかけても着物なら透けないか。帯を解いて肌けさせられないかな…等と色々考えながら呟く私に、三郎がふと、何か閃いたように口を開いた


「…なら、確かめたら良いんじゃないか?」

「確かめるって、何を」

「だから天女様の胸が本物か偽物か」

「どうやって」

「直接揉んでみて」

「…。」

「…。」



手をわきわきさせ揉み仕草をしつつ意地悪く笑う三郎に、雷蔵は「あはは、名案だね」と楽しそうに笑う。なるほど、その手が。



「じゃ、雷蔵。三郎」

「骨はちゃんと拾ってあげるよ」

「健闘を。」

「うん!」







・さくらんぼふたつ切り離せ







「いやー…、いきなり胸を揉んだのは悪いと思うよ。天女様を大泣きさせちゃったし。
だけど普通まさかもげるなんて思わないじゃん。私が使ってたやつは揉んだだけじゃもげなかったし、そもそも純粋な好奇心で行動しただけで、くのたま六年生の子みたいに悪気があってやった訳じゃないんだよ。だからさ、こんなぼろぼろな牢獄に一週間の謹慎処分はやりすぎだと思わない?」


薄暗い石で出来た牢獄の一室。格子の向こうに立つ二人にそう愚痴を溢す


「あははっ、ドンマイ。でも本当に偽物だったなんて。名前って洞察力意外とすごいよね」

「意外とって…いやもういいや。
でも確かにそこをシナ先生にも誉めて貰えたのは思わぬ収穫だったよ。」

「にしても…。ぷぷっ、あの時の先輩達や天女さまの表情と言ったら!よし、今度あの心底驚いた時の表情も練習してみよう。」

「出来たら見せてね」

「おう。でも、ま。これで名前の天の国が云々っていう疑問が解決出来たんだろ?なら結果オーライじゃないか」



そうなのだ。下の方までは確かめてないけど、もいでしまった後のあの平成の時の私以上のぺったんこぶりは、天女様が女のフリをしてるだけで、天の国はやはり清らかなのだと私を納得させるには十分だった


「そう考えると確かに謹慎処分は嫌だけど結果オーライかも。一月続いたもやもやが今はすっきりしてるし」

「良かったね、名前」

「やったな、名前」

「うん!」



えへへとすっきりした表情で笑うと、雷蔵と三郎は互いの少し顔を見合せた後、何を思ったのか二人は良い笑顔でまたこちらを見た
すっきりした気分が一転。なんだか嫌な予感がする


「なあ名前」

「な、なに…?」

「胸を見抜いた時、昔愛用してた。とか言ってたよね?」

「うん。」

「なら、今は?」

「へ…?」


なに言ってるんだろうこの二人は。戸惑いに鈍くなった思考がその一言と、何より二人が浮かべる良い笑顔を通り越してもはや胡散臭くなった笑顔によって急速に動きだし、そして一つの考えが導き出された

まさか、いやでもそんな



「なら、今の名前の胸は本当に本物なの?」

「いやいや私天の国の住人じゃなくて人間だし、女な訳だから胸は本物に決まってるじゃん」

「いやー、やっぱり実際確かめてみたいと納得出来ない。な、雷蔵」

「そうだね三郎。僕ら、それが気になって昨日から一睡もしてないんだ。ちゃんと責任取ってね?」


え、何そのこじつけ。それに関しては二人の思春期思考が爆発しただけであって、私悪くないよね?責任を取る為に確かめられる義務全くないよね?

なおも胡散臭い笑顔を浮かべる二人から逃走を図ろうと辺りを見渡すが、ここは牢獄。学園の端の端の地下にあり、助けを叫んでも誰にも届かない。
出口は二人がいる格子しかなく。
更に私が逃げようと視線を巡らせてる間に三郎が格子の鍵を開け、二人とも中にするりと入って来たもんだから、逃げ場はもはや存在しない。オーマイゴッド。


座ったまま後退すると、ひやり。背中に石の湿った冷たさが。


「僕ら以外に興味を持った罰だよ」

「たっぷり可愛がってやろう。」



ああ。こんな事なら前に目の前の二人が、一妻多夫でも良いから三人で恋仲になろうとか言い出した時に断っていれば。いくらアプローチがしつこくても、面倒くさがらずに根気強く二人を説得して諦めてもらえば良かった。

そう、後悔するが時すでに遅し。

抵抗する私の自由を伸びてきた二本の腕が奪い、もう二本の腕は宣言通り私の胸に伸び、そして、





fin.








- ナノ -