ある時期になると発生する慣習のようなもの。
「柳せーんぱーい!」
赤也が俺のところへ来る。
「今回もヤバいんです!勉強教えてください!」
テスト前の小さな悪あがきというわけだ。
「…また授業中寝ていたのだろう?」
俺はため息をつきつつ、いつも通りの言葉をかける。
「そうッスけど!寝ても寝なくてもわからないなら寝てたほうがお得じゃないッスか!」
「そういう問題じゃない。授業は聞いてわからないところを教えてもらうものだ。」
「聞いてもすべてわかりません!」
中学に入って何度この会話をしたのだろうか。
俺の記憶が確かなら9回目くらいだ。
「教えてもいいが、条件があるぞ。」
「やっぱりそうなりますか…」
2年になっても英語の赤点を脱することのできない赤也を見て、精市が罰ゲームを用意することにした。
毎回内容は違うが、悲惨な罰ゲームであることは違いない。
過去には、英語を呟きながらの校庭50周、1ヶ月英語の書きとりを5ページしてからの部活…
他にも色々あったが、どの罰ゲームも赤也にとっては辛いものだ。
それがわかっていても俺に頼んでくるのは1人では絶対に勉強にならないからだ。
教科書を開いても理解できないし、ノートもとっていない。
赤也にとって頼る先は俺や精市しかいないというわけだ。
「でも今回は頑張るんで大丈夫ッス!」
ちなみに毎回点は上がってはいる。
このままいけば、今回は赤点ではないはずだ。
「わかった。精市にも伝えておこう。」
言うまでもないが、精市に教えてもらわないのはスパルタすぎるからだ。
――――――
「うー、I don't speak Chinese.」
「なんでcanで聞いてるのにdon'tで答えるんだ。」
「わからないッス!」
今日も相当パニックになっているようだ。
「Can you speak Chinese?って聞いてるんだぞ。ここはyesかnoで答えるのが正解だ。」
「あ、そっか。Yes we canッスね!」
2時間休憩なしはきつかったのだろうか。主語が違うし、まずこの問題はnoで答えることが明記されているというのに。
「…noで答えろ。」
「あ、そうでした…」
「少し休憩をとる。」
休憩をとった後もしっかり勉強をした。
本人曰く、今回は自信あるらしい。
後輩の可哀想な姿を見ないことを願って、俺はテスト週間を迎えた。
――――――
「…赤也は何をしているんだ?」
テストが終了した次の日、赤也は腕立て伏せをしながら、文法の本を読み上げていた。
「罰ゲームだよ、恒例の。」
…今回もダメだったのか。
「いつになったら俺の罰ゲーム考える手間をなくしてくれるのかな?」
そういう精市の表情は楽しそうだったが。
――――――
そろそろまたくるだろう。
「柳せーんぱーい!今回もヤバいんで教えてください!」
「…」
「ちょっと先輩?聞いてます?」
「…そろそろ部活に行くか。」
「え?ちょっと!」
俺は無視することに決めた。
決して赤点を脱出できない赤也を見捨てたわけではない…と思う。
ただ今回は自分自身で勉強して赤点をとらないという奇跡が起きないかと興味をもっただけだ。
「いつも教えてくれるのに何で無視するんすか!?」
「これも教育方法だ。」
もちろんこの後赤点だったことはいうまでもない。
「柳先輩ひどいッス…」
無視という名の教育方法は失敗だったようだ。
さてまた方法を考えなくてはな。