朝、精市の遥か後ろを歩いていた俺は、丸井が精市に近づくのが見えてノートを開いた。
「あ〜眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い」
「ゆ、幸村くん!?何か呪文みたくなってるぜい?!」
「あ?丸いか…」
「あ?とか、朝からガン飛ばさないで怖いから!ていうか丸いじゃなくて丸井だから!」
「はいはい。で、何?」
「何って、幸村くんがいつもと何か違うから声かけただけなんだけど」
「あ、そう。ただ単に寝不足なだけだから。じゃ、帰るね」
やはり、あのオーラといい隈といい寝不足だったか。近寄らなくて良かったな。
「へー珍し、って何帰ろうとしてんだよい!部長がいなかったら部活どうすんの!?」
「そんなの、真田にやらしておけばいいじゃん」
「いや、駄目だから!ほら、幸村くん行くよい!」
「えー」
(ほう、あの丸いが、じゃなかった丸井があの精市を引き摺るとは…良いデータが取れた)
ずるずると精市を引き摺りながら歩く丸井に、俺も後からついていく。
「あーっ!」
部室に着くなり大声をあげた精市に俺と丸井、そして中にいるだろう仁王、赤也は驚いた。
「うおっ!?何だよ急に!」
「そっすよ!」
「……うるさいぜよ」
「だってさ!」
そう言って精市は部室の扉から離れると、俺と丸井は中を見る……みのむしがいた。
「何で毛布にくるまってんのさ!ずるい!」
「だって眠いんじゃもん」
「もんとかきもい」
「うっさい豚め」
「豚じゃねえし、馬鹿治!」
仁王と丸井が騒ぐ中、精市は赤也に耳打ちをしていた。
「(奴の毛布を剥がせ)」
「(っ!?…ラジャ!!)」
(赤也も苦労するな…)
不機嫌最高潮の精市の脅しに、赤也が顔を青くさせながら仁王と丸井に近づく。
「……うりゃあっ!!」
「うおおっ!?」
「ええっ!?赤也どうした!?」
突然の赤也の行動に驚く二人に構わず、赤也は膝をついて布団を精市に捧げる。
「幸村様、毛布にございます」
「うむ、ご苦労」
赤也から毛布を受け取った精市は、すぐに毛布にくるまる…二人のキャラが違うが俺はつっこまないぞ。
「(あ、彼奴、魔王の手下に)」
「(なんて奴じゃ)」
仁王と丸井がこそこそと話しているが、丸聞こえなことに気づいているのか。
「仁王と丸井、今日の練習量は十倍だね」
「なっ!?人の毛布取っといて酷いぜよ!」
「酷いよ、幸村くん!魔王め!」
ぐちぐちと文句を言う仁王と丸井に、精市はにっこりと、それはもう綺麗な笑みを浮かべて言った。
「十倍じゃなくて百倍がいいって?そんなにやりたいならやらせてあげる」
……この後、泣きながら精市に土下座して謝る二人が哀れで仕方なかった。
「あー幸せ。布団と結婚してもいいよ…いや、もう布団と結婚したい」
「…精市、それは毛布だぞ」