昼も夜も良い夢みたい(早く朝食食え!)
最近幸村がめちゃくちゃ怖い。いや、元々かなり怖い存在ではあったんだけど、最近はそれに輪をかけて怖いし、冷たい。昔の幸村はもう少し俺たちに優しかったのになあ。
そんなことを考えていたら、ふと幸村の声が聞こえた。


「仁王、顔色悪いけど平気?」
「…ゆき、むら?」
「あんまり無理しないでね。あ、もし良かったらこれ、俺の母さんが作ったクッキー食べてよ」
「え、あ、うん、ありがと」
「どうしたの、なんか挙動不審じゃない?」
「いや、あのー…なんか、今日、いいことあったん?」
「いいことって?」
「え、だから…今日、幸村の機嫌がええ気がするから」
「何言ってるの、普通だよ」
「は?いやだって、昨日までは」
「仁王ちょっと疲れてるんじゃない?真田には適当に言っておいてあげるから今日の部活は休みなよ」
「え、ちょ、幸村…!」



…夢か。

目覚まし時計が落ちる音で目を覚ました。最近の目覚まし時計は、随分体を張った斬新な起こし方をするもんだな。
ていうか夢…どんだけ俺優しい幸村に飢えてるんだろう。どうせ今日も部活で冷たい罵声を浴びせられるだけなのに。

朝早くに起きて学校に来たところで、すぐに部活が始められるわけではない。今日は平日、授業があるから。テニス部だからといって、特別扱いは一切してくれない。優勝しろっていうプレッシャーはかけてくるくせに、一切何の援助もしない学校って一体なんなんだ。


「お、仁王おはー」
「おはー…」
「んだよ、超眠そうじゃん」
「そういうブンちゃんは元気でいいのう…さすが子ども」
「バカにしてんの?」
「しとらん。次なんじゃっけ」
「国語だろい」
「俺寝るわ、ノートよろしく」
「そのまま永眠しろ」


永眠もいいかもなあ…あ、でもまだ無理。まだなんもいいことしてないから、地獄に落ちそう。舌抜かれるとか、俺のアイデンティティ全部持ってかれるし。嘘は俺のアイデンティティなんだ、許してくれ。

教師が一定のトーンで朗読する竹取物語が、すごく耳に心地好い。かぐや姫ってあれ、顔はいいのかもしれんけど性格最悪すぎるだろ。あの幸村だってこの世に実在しないものを持ってこいなんて言わないと思う。結婚したけりゃ金銀財宝持ってきな、くらいは言うかも知らんけど。


「…う……おう…仁王!」
「うわ!」
「まったく、いつまで寝てるの?」
「え、幸村?」
「幸村?じゃないよ、もう部活終わっちゃったよ」
「は?嘘、どんだけ俺寝とん、ちゅーか誰一人起こしてくれんってどういうこと」
「俺が起こしにきただろ」
「いや、そういうことじゃなくて」
「まあいいよ、疲れてたみたいだし。送ってあげるから帰ろ」
「まじでか」
「何か不服?」
「いやいや、まったく」


まさかの正夢!
あの幸村が、部活をサボって一切怒らないなんて!昔はまれにその優しさを見せていたけど、最近では超レア。やばい、俺予知能力あるのかも。
それにしても、あー、このまま幸村の優しさが永遠に続けばいいのに。そしたら俺、こいつに抱かれてもいい。いやごめん嘘ついた、それは無理だ。



「…う、…おう、仁王!」
「うわ!」
「おまえ、今日昼休みにミーティングするから部室来いって言ったよね、聞いてなかったのかな」
「え、…え?なに、え?」
「何じゃないよ、もう昼休みだから。どんだけふざけた脳みそしてんだアホが」
「すみません…ちゅーか、あれ、さっきのなに?」
「さっきのって何だよ。おまえこれ、ミーティング来なかったからやっといてね。あと校庭100周」
「は、嘘じゃろ」
「おまえじゃないんだからこんなことで嘘つくわけないだろ」
「うそおおおおおおお!!」


まじ、まじ、ほんとにどんだけ。一度ならず二度までも、どんだけ幸村。なんなの、思春期の女の子でもここまで同級生が夢に出ることはないだろ。

つーか幸村さん、俺の朝食兼昼食踏んでます。


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