「お腹へったわ〜」
金ちゃんの声に一瞬部室は静まり返り、そのあと一同が俺も俺もと同意をしだす。
俺も内心そう思っているのだが、個々の主張が激しいこの場では更なる波紋を広げるだけだと考え、ため息をついて彼らを眺めた。
少し肌寒くなってきたこの季節といえど、体を動かしたすぐあとであったので周りを見渡してみても一面真っ白だ。
学ランのおかげで部室が真っ黒になるにはまだ少し早いだろう。
「じゃあなんか食いにいくばい!」
久しぶりに部活にきた千歳が夏服から顔を出しながら、楽しそうに言った。
「やっぱあれ?いつものたこ焼き屋?」
ああ、十二個三百円の。そう誰かが呟いたすぐあと、ユウジがバンダナをつけ直してから口を挟んだ。
「たまには別んとこいこうや」
「じゃああそこは?駅前の店ん中に新しく出来た…」
「ええな!じゃあそこいこか!」
駅前というと、あの大きいショッピングセンターか。そういえば謙也が新しいお好み焼き屋が出来たと騒いでいた気がする。
***
「うまかったなぁ〜」
「次どこいく〜?」
みんなの心はすでに遊びモードにはいり、お好み焼きを食べている最中でも次にどこにいくかの話で盛り上がった。
「部長」
なかなか意見が決まらない彼らを眺めていると、制服をくいっと引っ張られた。その先をみると財前がこちらを見て、言い切った。
「一階の甘味所いきたいんすけど。」
「どうせ善哉くいにいくんやろ!」
「うざいっすわ」
いつもの絡みあいをみせ、ひとしきりみんなで笑ったあと、善哉を食べ次の店へと向かう。
「すまんばい・・・。俺にはあいつがおるたい、一緒にはいられんばい。」
「千歳なにトトロのキーホルダーに話しかけとんねん」
申し訳なさそうに俺の部屋にはいっぱいおるち、すまんばいといって棚にもどす千歳の背中は少しにじんでみえた。ってあほか。
「あ、パワーストーンか」
次に足を止めたのは、ブレスレット状になったパワーストーンの店であった。左利きのせいで左につけると邪魔になるため、包帯がまいてある方にはつけず、右手に何個かつけて遊んでいたら小春から声をかけられた。
「蔵リン、運は右手から入ってくるから右手につけとったら全部はじいちゃうでぇ」
小春の言葉にあわててパワーストーンを左手に付けなおすと金ちゃんにちょうど見られていたみたいで笑われてしまった。
「なんか白石かわいいな!」
「なんや全然うれしないわ・・・」
それから遊びまわって、明日も学校があるというのにかえったのは結局日がとっぷりしずみ真っ暗になってからであった。
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「めっちゃおもろかったわぁ!!また行きたいな!!」
金ちゃんがそう無邪気に笑うのに対してみなの様子は暗く、きょとんとしたあとようやく理解して自分もその仲間へと加わった。
「えっ小遣いもう無いねんけど!?」
「しばらくどこにもいけんたい…」
「俺ちょっと氷帝いってきますわ」