「だるい」
そう一言呟いた仁王は机に突っ伏した。俺はそれを眺めながら「ふーん」とだけ返して、隣の席の、何さんだっけ…?山岡さん(仮)がくれたポッキーを一本くわえた。つーかお前がだるいのなんていつもの事だろ。なんて突っ込まない俺、優しい。
今日も「丸井君丸井君元気?俺超元気!」という何を伝えたいのか全く分からないメールがジローから来た。授業中だけどあいつサボってんのかな。ふと斜め前に目をやると、仁王は既にに寝ている。既に、というのは、まだ授業が始まって五分も経過していないからだ。
先生も諦めたように仁王を完璧に無視している。仁王がいないかのような空間に俺もつまんなくなって、こっそりいじっていた携帯を閉じてついでに目も閉じた。
「こら、丸井まで寝るな!」って、なんだよそれ。仁王贔屓。
「あれ?柳生は?」
お昼休み、いつものようにレギュラーは屋上に集まって弁当を開く。いつまでたっても現れない比呂士に幸村君が首を傾げた。
「ああ、柳生なら早退した」
「まじで?」
「朝から具合が悪そうでな。保健室に行かせたら熱があったらしい。早く帰れといっておいた」
比呂士と同じクラスの真田がエビフライを箸で持ち上げながら言う。ちょ、エビフライ。真田にエビフライて。
「ふーん、…あ、ほんとだメール入ってた」
幸村君の声を聞きながら二つ目の菓子パンにかじりついた。比呂士には悪いけど、いいなあ。俺だって帰りたい。だけど生憎俺は元気だ。多分。
俺の横で寝そべっている仁王は、いつの間にかまた寝ていた。…つーかこいつ、
「…気のせいだと思うんだが、仁王も若干顔色が悪くないか?」
柳の言葉にどきっとした。え、なに。まさか仁王まで帰っちゃうの。
「仁王」
「んー?」
「元気?」
「…普通」
幸村に返事をするも仁王は目を開けなかった。確かに朝からいつもよりテンションは低かった、けど。ほんとに具合が悪かったのか?比呂士も早退しちゃったし、なんだよダブルスってそんなのまでシンクロしちゃうの?
結局仁王は最後まで午後の授業に現れなかった。早退したのかな、とぼんやり考えながらチョコが溶けかけのポッキーを加える。つまんない。俺も早退してやろうか、でもあれだよな。三人目って、ほら、さ。自分でいうのも何だけど、比呂士みたいに普段が真面目じゃないから絶対幸村君に怒られる気がする。
そう考えながら部室のドアを開けた。
「あれ、仁王…?」
仁王が、いた。部室のソファーで堂々と横になっている。制服姿のままだ。
「早退したんじゃなかったのかよぃ?」
「したかったけどな、」
部活は出たかったんじゃ。
そう呟いて寝返りをうった仁王をぽかんと見つめる。ああそっか、俺らテニス馬鹿だもんな。学校の授業が全部無くなって、部活をずっとできればいいのに、なんて考えるような奴らの集まりだもんな。そして俺もその内の1人だ。
「部活終わったら、比呂士んち寄ろうぜ」
「…おん」
(いっそのこと皆で早退しよーよ)
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