最後に紅茶を。 | ナノ
いつか罪に呑まれても


「もう一人の愛」に出会った。愛は本当は死んでなかったの?そんなことまで考えてしまうほど、頭の中は混乱していた。だけど、抱き締めて、キスをして、好きだと言った時に残ったのは虚しさだけで、ああそうか、彼女はやっぱり愛ではないんだと実感させられた。
なのに、僕は。
彼女を傷つけるだけだと分かってて、それなのに付き合ってくれと言ってしまったんだ。自分のしていることの最低さに呆れた。15歳も年下の子に縋るほど僕は弱かったのか。こんな僕には愛をまだ好きでいる資格も、会いに行く資格もない。なのに、ここに足を運んでしまった。

「……しばらく来れなくてごめんね、愛」

今日は彼岸の中日。最近は仕事が忙しくて来れていなかったが、久々に愛のお墓へと来ることが出来た。15年経った今も、墓石の周りには生き生きとした花が飾られている。君は沢山の人に愛されていたんだね。最後まで僕のことなんかを考えてくれていたんだから、他の人にも愛されて当然だ。でもね、愛。僕は君にそんなに思ってもらうほどの人間じゃないのかもしれない。

「……愛。不思議な子に会ったんだ。君と、瓜二つの」

昼間なのに他に誰もいない為か、自分の声だけがやけに響いた聞こえた。まるで、世界に愛と僕しかいないような錯覚に陥る。本当にそうだったら良いのに。

「君の生まれ変わりなんじゃないかって、そう思って…。付き合おうなんて言っちゃったんだ」

自分はどうしてこんなことを愛に言っているのだろう。そうだよ、って言って欲しいのか。彼女を愛の代わりとして愛そうとしている僕を許して欲しいのか。いずれにせよ、返事はかえってこない。
そろそろ帰ろう、そう思って立ち上がった時、タイミング良く携帯が鳴った。ディスプレイには【着信 中野愛】の文字。愛のお墓の前で彼女からの電話に出ることを少し躊躇ったが、無視することも出来ずに通話ボタンを押した。

「あっ、あの、もしもし周助さん?」

電話のせいで少し機械がかった愛ちゃんの声が耳を通る。あまり意識していなかったけど、そういえば声まで同じなんだ、と思った。

「やあ、愛ちゃん。どうしたの?」
「あ、いや……えっと、用は、ないんですけど」

用件を聞くと急にどもる彼女に、違和感を覚えて聞き返す。

「何かあった?」
「……いえ、何でも」
「ふうん。僕はそんなに頼りないんだ」
「え、いや!そういうつもりじゃなくて、えっと…」

からかう様にそう言ってみたら、急に焦り出した愛ちゃんを、可愛いと思ってしまった。愛ちゃんは性格は控えめだし、学校でもそれなりにもてると思う。

「クス、冗談。言いづらくても出来れば言って?怒ったりしないから」

電話の向こうの彼女は、少し黙ったあとに変な話しなんですけど、と話し始めた。

「さっきから急に不安になって。周助さんが、その……本当に私のことを好きで付き合ってくれてるのかなって」
「………うん」
「だからその……声、聞きたくて。なんか疑ってすいません」

どんどん消え入りそうになる彼女の声。中途半端な僕の行動が愛ちゃんをここまで不安にさせていると思うと、自分にどうしようもなく嫌気が刺した。愛は僕に幸せになってと言った。だけど、僕は愛する人を幸せにする力なんて何も持っていない。自分の欲求を、未練をずっとひきづっているだけ。
離してやらなきゃ。彼女には彼女の未来がある。例え愛の生まれ変わりだろうが何だろうが、愛ではないんだ。僕には、愛ちゃんをちゃんと会いしてやれない。分かって、いるのに。

「大丈夫。僕は君が好きだよ」
「……はい」
「今すぐにでも会って、抱き締めて、キスしたい」
「っ……はい」

君を好きになろうと思った。愛と重ねてじゃなくて、別の人間の愛として。だから僕は君を安心させるために甘い言葉を囁く。
それでも愛を思い浮かべている僕は、生まれ変わりの君ですらきっと幸せにしてやれない。それが分かっているのに、弱虫な僕は君を手放すことも出来ないんだ。
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