最後に紅茶を。 | ナノ
素直になれなんて馬鹿げてる


先日までは高校の制服に身を包んでいたのに、今私が着ているのは大学の入学式のために用意したスーツ。そう、今日から私は大学生となる。
入学式が終わり、これから桃春と二人で入学祝いをする予定だ。といっても慣れない場所で式を終えた後なので二人とも疲れているし、一人暮らしの桃春の家で二人でご飯を作って食べるだけなのだけど。
会場内での待ち合わせは混雑しすぎていて困難なので、外で待ち合わせることになった。暫く待って現れた桃春は、背も高く美人なのでスーツ姿がばっちり似合っている。羨ましい。

「うっわ愛、スーツ似合わなっ」
「う…分かってるんだからほっといてよっ」

気にしていることをズバリと言われてしまい、あからさまに落ち込む。お世辞の一つくらい言ってもいいじゃんか。

「うそうそ、愛似合ってるよ。なんか大人っぽくなった」
「え!ほんとっ!?」
「ほんとほんと。なんかね、綺麗になった気がする」

まさかのこのタイミングでの褒め言葉に舞い上がっていると、調子乗るなよとはたかれた。きっと桃春はツンデレなんだ、うんそうだ。中身は相変わらず高校のときのままで、二人でああだのこうだの言いあっていると、桃春がいきなり何かを思い出したかのように「あ」と声をあげた。

「あのさ、従兄弟がこの間ここを卒業して、それで聞いたんだけど」
「七不思議とか怪談話はやめてよ」
「違う違う。なんかね、とんでもないイケメン講師がいるらしいんだよ」

興奮気味に話す桃春を見て、私は今呆れ顔になっていることだろう。そういえば桃春はこういう類の話に目がなかった。

「どうせ大袈裟な噂だよ。期待しちゃいけません」
「もう愛ったら夢がないんだから!私はやり遂げてみせるから!」
「何をよ」
「決まってるでしょ!講師と生徒の禁断の愛…を、よ……」

またくだらないことを言い出した、このまま妄想話が始まるな。と思ったけど桃春がその続きを話すことはなかった。その代わりに何かこの世のものではないものを見るかのような目で私の後方を見つめている。何だか良い予感はしない。

「おーい桃春ー?桃…」
「見つけた私の王子様!!」

やばい、とうとういかれたらしい。桃春はいきなり発狂し、一瞬の間に私の横を走り抜けて行く。どこ行くのー!と後ろを振り向けば、桃春は五十メートルほど先で背の高い男の人と話をしていた。此方に背を向けているので男の人の顔は分からないけど、桃春が目の色を変えて走って行ったということはイケメンなんだと思う。あの男の人に迷惑をかけないうちに離さないと。仕方なく、私は慣れないヒールを鳴らしながら桃春に近づいた。

「えっ!生徒じゃないんですか!若ーい!じゃあ講師とかですか!?」
「いや、俺は講師の助手として来ているんだ」

そんな会話が聞こえてきて、へえイケメン講師……改め、イケメン助手の噂は本当だったんだあ、と思いつつ桃春に声をかける。

「ほら桃春、あっち行くよー……」
「あ、愛!見て見て、幸村さん!かっこいいでしょっ」

って言われても、桃春と私のタイプっていまいち合わないんだよなあ。そう思いながらも隣の幸村さんをちらりと見てみる。
……うわ。
恰好良いというより、直感的に綺麗な人だと思った。今まで見てきた人の中で、一番綺麗かもしれない。そう思ってしまうほどに。目を逸らせずにいると、視線がぶつかった。幸村さんは少し驚いたような顔をした後、にこりと笑う。……あ、私この人苦手だ。何を考えているんだか分からなくて、どこか儚い笑い方が私の中で過去となった人を思わせる。

「はじめまして。新入生かな」
「あ……はい」
「幸村です。講義とかで会ったらよろしく」

じゃあ俺はこの後用事があるからこれで。そう言って幸村さんはキャンパス内へと歩いて行った。

「……愛」
「……えっ、えと、何?」
「何見つめてんの〜。一目惚れ?」
「ちっ違うよ!なんか、その」

一目惚れなんてしていない。百歩譲って、幸村さんをつい視線で追ってしまったのは認めるけれど。

「愛にとられないように頑張ろーっと」
「違うってば、馬鹿桃春っ」

ほんのちょっとだけ幸村さんが周助さんに似ていたから見てしまったなんて。未練がましい自分に嫌気がさした。
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