最後に紅茶を。 | ナノ
曖昧なのが好き、傷つかないのが好き


蕾を膨らませ、やがて開いた花は散る。そして芽吹いた新芽は葉になり、色づき、落ちて行く。この道の桜は、あれから何回それを繰り返しただろうか。春前の少し肌寒い季節には、決まってあの人のことを思い出してしまう。

「愛、写真撮らないのー?」
「え……ああ、うん。今行く」

年が経ったことを知らせるかのようにまた小さな蕾をつけた桜を眺めていたら、カメラを構えていた友達に声をかけられた。
今日は、高校の卒業式だった。地元の進学校に入学した私は、それなりに楽しい毎日を過ごしたと思う。クラスメートは皆、最後の記念にと校門の前で写真を撮っている。そんな中、高校で出来た親友の桃春は、周りに便乗することもなく私の側に駆け寄ってきた。

「もー、愛っていつもぼーっとしてるんだから。何、またあの人のこと考えてたの?」
「ちょっとね」

笑ってみせると、桃春は飽きれたように此方を見た。

「あんたねえ、華のJKにとったら三十歳なんておっさんよ、おっさん。しかも今はもっと歳取ってるわけでしょ?私ならアウトオブ眼中だわ」
「ふふっ、おっさんか。確かに」

怪訝そうな顔をしていう桃春に、何だか可笑しくなってしまった。桃春は私と周助さんのことを知っている唯一の人間だ。仲良くなった時に、前世の記憶を少し持っていること、前世で好きだった人を現世でも好きになってしまったことを思い切って話してみた。だけどこの桃春という人間は、「それがどうしたの?」とお菓子を食べこぼしながら言うものだから少々呆れてしまったのを今でも覚えている。

他人から見れば、歳が一回りも違う人を好きになるのは十分珍しいことなのだろう。中には私を「そうゆうの目当て」と勘違いし、軽蔑した目で見る人もいると思う。だから私は桃春以外の人間にこのことを言ったことはなかった。でも周助さんは実際、歳の差を感じさせないほどに若々しかっのだ。肌だって真っ白で綺麗だったし、学生服も似合いそうな容姿で。勿論、少し草臥れたスーツを着こなす姿も様になっていた。今思えば、会社とかでかなりモテたと思う。

「好きだったんだよなあ」
「過去形?」
「………うん」

そう、今が彼と出会った季節だから。あの助けてもらった日と、似た気候だから。だから思い出しただけ。高校生活の中で、何人か彼氏も出来た。あまり続きはしなかったけれど、ちゃんと好きにはなれたし、今更周助さんに対しての未練なんかあるはずないんだ。
私達も写真撮ろうか、なんて言ってみると、桃春は別に私達は良いよと笑った。

「どうせ大学同じだしさ。嫌でも愛の顔、毎日見るし」
「うわ酷い」

膨れてみせると、頬を抓られた。お返しに抓り返すと、そのうちにお互いの顔で遊び始め、にらめっこ状態になる。両頬を伸ばされたまま私が噴き出すと、桃春も笑い出した。本当、卒業式の日まで何やっているんだか、私達は。まだ泣いている子だって居るというのに。でも、しんみりとしたムードの中でいつも通りで居てくれる桃春が嬉しくて、少しだけ涙が出た。

平凡な日常の中で、確かに幸せがあった。だけど何か欠けるものがあって、私はそれに気づかないふりをするのだ。これを続けてもう何年になるのだろう。
過去が優しいなんて、嘘なんですね。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -