最後に紅茶を。 | ナノ
からっぽの世界に一人


彼女は心の何処かで、初めから気づいていたのかもしれない。

「周助さん。貴方の目の前にいるのは、写真の中の女の子じゃない。別の人間の、中野愛なんです」

僕が、愛ちゃんを別の誰か__愛と重ねて見ているということを。

「別れましょう、周助さん」

だから、こうなって正解だったんだ。分かっている、引き留めても傷つけるだけだ。きっと僕は愛のことを忘れられずに、彼女と付き合っていても重ね続けるだろう。僕には、愛ちゃんを幸せにしてやれない。
愛にはもう会えないということを、そして君とももう会う資格がないことを僕は分かっているはずだ。頭で理解はしていても、受け入れたくないのか。だからこんなにも愛ちゃんと離れたくないのか。

「周助さんが好きなのは「愛」。私じゃない、違いますか?」

愛ちゃん自身はきっと僕のことを好きじゃない。だからこんなに簡単に、別れを告げられるんだ。以前僕に言った「好き」は前世の愛の言葉。付き合ってくれたのも、前世の記憶と重なったから。「愛」の記憶がなければ、愛ちゃんは僕と付き合っていなかっただろう。ごめんね、僕の独りよがりの恋愛ごっこに振り回して。今を生きる君の心を、過去に縋る僕のせいで崩してしまって。次誰かを好きになったときは、過去に捕らわれて他人までも傷つけ振り回す、僕みたいな人間にどうかならないでね。
此方に背を向けた愛ちゃんと愛が、重なって見えた。
また愛は僕の前からいなくなるんだね。そしてまた僕は大切なことを何も言わずに、君と別れるんだ。十五年前と何も変わらない。何も進めていない。僕の中の時は止まったままだ。その証拠にまだ思うんだ。離れたくない、君が好きだと、自分勝手なことを。
玄関のドアが閉じられたのとほぼ同時に、生温かいものが頬に伝った。なんだろう、何でだろう。涙なんて、今更どうして。
ああそうか。これが、本当の別れか。

さようなら、十五年ぶりの初恋。
さようなら、「愛」。
そして、僕が心から幸せを願う人。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -