カモミール | ナノ


04


一体、どうゆうことだ。



「おかえりー、杏里ちゃん」

「どこ行ってたのー?探したんだよ」

「さっきはごめんね、小野さん可愛いから嫉妬しちゃったんだ」



教室に戻ると群がってきたのは、朝私を睨んできた女の子達。今度は何をされるのだろうか、と警戒していたら、今朝とは百八十度違う態度だ。だからといって嬉しいとか安心したとか、そんな感情は一切なく、ただ居心地の悪さと違和感を感じる。何が目的だか知らないが、一刻も早くこの場を去りたい。



「通して、席着きたいから」

「えーっ、じゃあ席でお話ししよう?」

「そうそう、私達杏里さんと仲良くなりたいの!」

「ほら明もこう言ってることだし、ね?」



突然出てきた「明」という名前に反応し、そちらを見る。綺麗な真っ直ぐの黒髪に、切れ長の目。恐らく、世間一般で言う「美人」に分類されるのであろう彼女は、今朝私の自己紹介を遮った「不二周助」の彼女だった。



「自己紹介がまだだったね、私は佐野明。よろしくね」



ふざけるな。どう考えても都合が良すぎる。笑顔で手を差し出す彼女を軽く睨みつけて、無視しようとしたが、腕を掴まれた。



「待ってってば、杏里ちゃん」

「気安く呼ばないで」

「……チッ、つまんねーな、ブス」



ほらね、ちょっと突っ付けばすぐに本性を出す。つまんないのはあんた達だっつーの。
佐野達は私を睨み、こそこそと話をしている。きっと先程のは何かの計画の一部だったのだろう。その計画がなんだったのか____佐野の手に握られていたカッターナイフを見てしまった今、考えたくもない。
様子を見ていたらしい不二周助と目が合った。彼の隣には友達らしい外ハネの男の子。



「クス」

「ちょっ、不二!?何でいきなり笑いだすにゃ、俺あの子のこと本気で…!」

「うん、綺麗だよね。血の一滴も惜しいくらいに」

「!!」



彼は此方を見たままそう言った。全身に、鳥肌が立つ。私の表情が微かに歪んだのを見て、不二は更におかしそうに笑った。……こいつ、越前と同じ目をしてる。
彼は知っていたんだ。先程の計画のことを、カッターナイフで私が傷つけられるであろうことを。



「最っ低だね……!そんなことして何とも思わないの!?」

「何の話かな。あ、ほら。英二、チャンスだよ。自己紹介して」



私が問いただしても動じることなく、彼は隣の「英二」という男の子に話を振った。はぐらかすな、と言っても彼は答える様子がない。状況を読み込めていない様子の男の子は、戸惑いながらも私に話しかけてきた。



「お、俺菊丸英二って言うにゃ!よろしく杏里ちゃん!」



菊丸君が差し出した手をすぐに握ることができなかった。私は臆病で馬鹿だ。もう、何が本当で嘘なのだか見極める力さえ残ってない。嗚呼そうか。私は今まで人との関わりを避けていたんじゃない。人との関わりを恐れていたんだ。だから今も、この人の手をとるか迷ってる。
だけど、どったの?と無邪気に笑う菊丸君を見ると、それがさっきのような計画の一部だと思えなくて……怖いけど、一歩を踏み出して。信じてみようと、そう思った。



「……小野杏里です。よろしくね、菊丸君」

「にゃー!不二、杏里ちゃんが俺の手握ってる!夢じゃないよね!?」

「くす、羨ましいな英二」



すぐに不二を睨みつける。いくら菊丸君が不二の友達なのだとしても、ただそれだけで私と仲良くさせるなんて……私に友達を作らせるなんて思えない。今度は何が目的なのだろうか。



「そんな顔しないでよ、別に何も企んでなんかいないよ。ただね、思ったんだ」



不二は菊丸君のことを一緒横目で見てから、不敵に笑う。違う。この顔は、何かを企んでいる。越前と同じ表情をしているから分かる。



「英二と君が付き合ってくれたら、最高だなあと思って」



そう不二は私の耳元で囁いた。心臓が、痛い。煩い。



「君は僕の物になるんだ」



昔、家に飾ってあった綺麗なドイツ製のテディベアを思い出した。確か、綺麗だからって従兄弟が遊びに来た時は毎回取り合いをした。私の人形の中でもダントツのお気に入りで、遊び過ぎてぼろぼろになって捨てたんだっけ。あれ、なんで今、そんなことを思い出すのだろう。
ああそうか。あのテディベアと同じ運命を、これから辿るからか。彼等の手のひらの上で。



石楠花
花言葉:警戒 危険

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