カモミール | ナノ


06


付き合い始めた頃から、英二には「他の男と話すな」と言われていた。初めは、私が影で虐めを受けない様にそう言ってくるのだと思っていた。違和感に気がついたのは最近。その時には、もう恐怖しかなかった。
私が英二の変化に気がつき始めた頃、不二は執拗に私に話し掛けてきた。わざと、英二に見せつけるかの様に。勿論私は不二から逃げていたけど、その度に英二は不機嫌になった。それを見た不二が、楽しそうに笑っていたのも私は知っている。



「離せ、離せ!!」

「クス、だーめ。英二がもうすぐ来るんだから、見せつけとかないとね?」



そして、この状況も不二の策略。
英二の部活が終わるのを教室で待っていたら、誰もいないはずなのに、突然聞こえた足音。振り向くとそこに居たのは不二で、その瞬間私は彼に抱き締められた。こんな所、英二に見られたら____。



「ほら、英二が見てるよ」

「……!!」

「クス、恐怖に怯えた表情……最高。騒がれたら困るから、キスでもしちゃおうか」

「や、やめ……んんっ!!」



もう遅かった。窓越しに、コートに居る英二が此方に気がついたのだ。英二がすぐに此方へ走ってくるのが分かった。抱きついたままの不二は、私の耳元でクス、と笑う。



「ゲームオーバー、だね」



廊下から聞こえる英二の足音が近づくと彼は離れ、教室から出て行った。
それとほぼ同時に、英二が教室に入ってくる。表情が、怖い。どんどん此方に近づいて来る。



「やだ、ごめんなさい、ごめっ……」



そうか、そういうことだったんだ。
不二の意味深な言葉の理由。今更思い出すなんて、今更後悔するなんて。私は馬鹿だ。詰めが甘くて、後先考えないで。だから、簡単に人に操られる。
不二は、英二の長所である素直さが生んだ短所____彼の「狂愛癖」を利用しようとしたんだ。その為に、英二を私に近づけた。



「なんで分かってくれないの?俺は杏里を愛しているのにさ。不二と何してたんだよ」

「違う!あれは不意打ちだったの、私は英二しかっ」

「煩い!!!」



バシンッ____



「っ……痛い、やだ、ごめんなさっ」



殴られた場所がじんじんと痛む。私が痛がるのもお構いなしに、英二は更に私との距離を詰め、押し倒した。そのまま馬乗りになったと思ったら、今度は脇腹を殴られる。



「痛!痛い!やめて、うっ!!」

「はは、余裕だにゃ?杏里。まだ話せるなんて」



肩に乗せた手に力が込められ、痛さに顔が歪む。胸、腹、顔____。スポーツをやっている男子が、手加減なく殴ってくるのだ。このまま続けられたら、意識を失うのも時間の問題。
薄れていく視界の中で、ドアの影から此方を覗いている薄茶の髪が見えた。あれは不二か。あんなところで覗いて、私が苦しんでいるのを見て楽しんでいるんだ。____私って、何なんだろう。玩具?人形?彼等は子供だ。お気に入りの玩具を、何が何でも手に入れようとする、幼い子供のまま。



「何やってるんスか!!!」



英二の腕がもう一度振り上げられたところで誰かの声が聞こえて、私の意識は途切れた。



秋明菊
花言葉:褪せていく愛


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