カモミール | ナノ


05


カッターで私を傷つけることに失敗したあの時から、佐野を始めとしたテニス部のファンクラブは私への嫌がらせを赤ら様にするようになった。
ある時は上履きを隠され、ある時は椅子に接着剤、酷い時は暴力までされた。周りも気づいているが一切触れない。話しかけてもこない。担任を始めとする教師達も見て見ぬ振り。
そんな生活は前の学校と何ら変わりなく、人間は何かが優れた者を集団で蹴落とさないと生きていけない、情けない生物なのだと実感させられる。
だけどその中でも私に話しかけて来る人いた。



「杏里ー!お弁当一緒に食べようにゃ!」



それは、クラスメイトの菊丸君。不気味に笑って意味深な言葉を並べた不二が、私と菊丸君が友達になることに対して何かを企んでいたのは間違いないが、菊丸君は純粋に私と仲良くしてくれてる。だから今はそれでいい。深いことは考えたくない。この時間が私にとっては凄く優しくて、学校に来る意味になっている。



「菊丸君。うん、食べよう」

「ここじゃ落ち着かないだろうし、屋上行く?」

「ありがとう、天気もいいしそうしたいな」



そう言って私は自分の鞄から弁当を取り出し、屋上へと歩き出した。
歩いている途中、菊丸君が手を繋いできて。それに驚いて菊丸君の方を見ると、顔を赤らめてそっぽを向いていた。それがなんだか可愛くて、私は小さく手を握り返す。



「んーっ、いい天気!」



屋上の重いドアを開けると、そこには前に来た時と同じ真っ青な空。屋上に出ようと足を踏み出すと、繋いだままの手を軽く引っ張られた。



「……?菊丸君?」

「杏里は辛くないの?」

「………え?」

「あんなことされて」



さっきから少し様子がおかしいと思ったら、心配してくれていたらしい。急な質問に驚いたが、私なんかを心配してくれたのが嬉しくて思ったままのことを口にした。



「辛くないといえば嘘になるよ。だけど、弱音はいてても解決はしないし」



そう笑って言うと、菊丸君は驚いた様な表情を見せた。それから、眉を下げて彼は優しく笑う。



「そか。杏里は強いにゃ!」

「強くなんかないよ。だから、強くならなきゃなの」

「……なら、杏里が強くならなくても良いように」



真っ直ぐに私を見つめる菊丸君。その瞳は澄んでいて、視線を逸らすことなんて出来なかった。



「俺と付き合って欲しいんだ。杏里が、好き」



菊丸君がくれたのは期待通りの言葉で、嬉しくて涙が出てきた。こんな状況でも私を守ると言ってくれる人がいる。真っ直ぐに、私を見てくれる人がいる。容姿だけじゃない、「小野杏里」を。



「うん……ありがとう」

「好き、杏里…...愛してる」

「私も、英二が大好き」



一人で生きていけるくらいに強くなると、人に頼らないと決めた。だけどそれは私のただの強がりで、本当は誰かに愛して欲しかったのかもしれない。だから今、彼の温もりがこんなにも暖かく感じる。
お互いに大切と思い合えるって、なんて凄いことなのだろう。どれだけの偶然が重なり合って成り立つことなのだろう。こんなにも幸せな気持ちになれるなんて。
だから、舞い上がり過ぎていたのかもしれない。この時の私は不二の言葉を忘れていた。



____「英二と君が付き合ってくれたら……最高だなあと思って」



そしてその言葉の本当の意味を、私は理解することとなる。



アザレア
花言葉:貴方に愛され幸せ

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