カモミール | ナノ


12



杏里先輩に、幸村さんに会った時に貰った植物園のチケットを渡した。正直植物なんてあんま興味ないし、植物園自体はどうでもいいんだけど。それでも、先輩となら楽しいだろうって思った。
チケットを渡す時、余裕な振りしてたけど柄にもなく緊張してしまった。先輩は俺を許すって言ったけど、やっぱり当たり前のように先輩に近づくのは図々しい気がして。
本当は嫌われてたらどうしよう、とかも思ったけどそんなことはこの際関係ない。そんなつまらない想像上の心配はどうでもよかった。
一応先輩はチケットを受け取ってくれたから、俺は舞い上がってたのかもしれない。勝手に期待してた。

今日は、あれから一週間経った約束の日。

時刻はとっくに4時を過ぎていて、先輩は菊丸先輩を選んだんだって、思い知らされた。まあもともとあの二人は付き合っているんだから、邪魔者は俺なわけだし当たり前かもしれないけど。
ぶっちゃけ悲しいってゆうか、悔しい。女一人のためにこんなに振り回されて、「生意気ルーキー」なんて呼ばれている俺は今どこにもいない。

何故だかこんな状況で、初めて先輩に会った日のことを思い出した。

朝練に遅刻しそうになって、人にぶつかるのも気にせず走る俺。目の前にいた先輩に気がつかなかったわけじゃなかった。
でも女なんてどうせ俺の顔みたら許してくれるし。顔が良いって、本当得。気なんか使わなくていいし、優しさなんてなくても周りに人は寄ってくる。愛さなくても愛されて、尽くさなくても尽くされる。
どうせこの女だってぶつかったら顔を赤くしてごめんなさいと謝るんだ。例え俺が悪くても。ああなんて気分が良くて、胸糞悪い。誰も本当の俺なんか見ちゃいないんだから、気を遣うことなんて馬鹿馬鹿しい。
だけどこの目の前の女は、ぶつかって俺の顔と容姿を見ても、他の女みたいに顔を赤くすることもなく突っかかってきた。なんだこの女。むかつく。偽善ぶりやがって。だけど同時に綺麗だとも思ってしまった自分が居た。なんとしてでも、この強気な女を自分のものにしたいと思った。だけど、今まで愛されることしか知らなかった俺に愛し方なんて分からなくて、結局遠回りをした。傷つけて、その度に強くなっていく彼女を見て取り残されていくような気すらした。愛しくて愛しくて、でもどうしたら良いのかなんて知らなくて。
でも先輩がこの場に来なかったことで分かった。俺が愛しい人のために出来ることは、ただあの人の幸せを祈ることだけ。幸せにするのは俺じゃなかった。だけどそれは先輩が選んだことだから。貴方は決して届かない、崖の上に咲いた一輪の花。



「……こんなまじで好きになったの、初めてだったんだけどね」



駅前で騒がしく人々が行き交う中、俺は頬に伝った涙を馬鹿馬鹿しいと思いながら、夕暮れに染まった空を仰いだ。

さようなら、強く美しい人



ワレモコウ
花言葉:愛して憂う

back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -