カモミール | ナノ


10




「あー、お腹減った!」



あれから数日が経った。佐野達は私に嫌がらせをしてくることはなくなり、今までの出来事は夢だったのではないか、と錯覚するほど平和な毎日が続いている。



「えーいじ!お昼食べよ?」

「うん!」



そして英二と私の仲は以前のようなものになっていた。変わらず恋人同士。ふざけたりじゃれあったり、平凡な幸せを噛み締める。
だけどなんだか私の心にはポッカリと穴が空いたような虚無感があった。それが何なのか分からずに、私はきっとまだ傷が癒えていないだけだろうと思うことにした。



「あ、不二も一緒にどう?」



英二の隣の席の不二も誘う。だけど、彼はなぜだか複雑そうな表情を浮かべた。



「あ、ごめん嫌だった?」

「いや……その、良いのかい?」




誘っているのだから良いに決まっているのに、不二のその発言の意図が掴めない。そんな私の気持ちを知ってか、彼はこう続けた。



「僕はケジメをつける為に君とは話さないって言った。なのに、良いの?」

「ああなんだ、そんなこと」

「小野さん。僕は真剣に、」



癒えかけた不二の頬の傷が、先日までの出来事が夢ではなかったのだと私に告げる。あれで終わりでは無かった。体の傷は自然治癒力でいつかは消える。だけど心に刻まれた傷や自責心は、曖昧にしたままでは消えることなんてないんだ。



「不二が私と話さないことで私が報われると思っているならそれはとんだ勘違いだよ。私は不二を許したい。許させて」

「小野さん、」

「さっ、早く行かないとお昼休み終わっちゃう!」



不二の弁当を勝手に取り出して屋上へと歩き出す私に、不二が小さくありがとう、と言ってたのは聞こえなかったことにする。だってこれからの自分の為に許すと決めたのだから。前に一歩、踏み出す為に。

屋上に着くと、最近はだいぶ見慣れた小さなシルエットがあった。それに私の心臓はどくん、と高鳴った。それが何故なのかは、きっとあの出来事のあとに越前に呼び出されて告白されたからだ。勿論私はその場で英二がいるから、と断った。だけど何故だかあれから、彼を見ると落ち着いていられない。それを悟られぬように私は彼の元へと歩み寄る。



「越前。あんたもお昼一緒に食べる?」



越前は私の声にゆっくりと振り向く。そして、そのまま黙ってしまった。



「あの、越前?聞こえてる?」



もう一度問いかけると、彼は我に帰ったようで何故だか私の髪に手を延ばしてきた。



「ん、聞こえてたけど……。ポニーテール、似合うっすね。見惚れてた」

「なっ……」



越前のその言葉に、私の体温は何故だか上昇する。なんだか今日の私は変だ。容姿を褒められるのなんて、人の妬みを買うだけだから大嫌いだったはずなのに。この気持ちが何なのか分からないまま、私は昼食をとるべく越前の手を引いたのだった。
そんなわたしの変化に、貴方は気付いていたなんて知らずに。



トリトマ
花言葉:恋する胸の痛み


back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -