キスミー・マイベイビー | ナノ

気持ち


教室掃除を終わらせ、SHRを受けながら机の下でこっそり無料通話アプリを起動。先程グループトークで「不二先輩と話しちゃった!!」と送信したところ、「可哀想にとうとう妄想が飛躍して…」と何故か憐れまれたのだ。事実なのに…!誰も信じてくれない為、必死に「本当だってば!」と送信しても意味を成さない。先生の目を盗みながらグループに入っている三人に目配せしても白い目で見られるだけ。皆私をなんだと思っているのだろう。

「おい朝比奈!聞いてるのか!」
「はっ、はい!?」
「今俺が言ったことを言ってみろ」
「愛妻弁当のハンバーグが美味しかった、って話ですか?」
「後で職員室来い」

友人の方をキョロキョロと見ていたのがバレたらしく、いきなり担任に呼びかけられた。朝比奈はるる終了のお知らせ。机に突っ伏しながらトークを見てみると、なんとこの数十秒で40件も溜まっていた。その内容の全てが「はるるwwwwウケるwww」「嘘つくから罰が当たったんだね☆」というもの。友達ってナンダッケ。


「ああーっ、もう最悪ー!!」
「どんまいはるる」
「あの担任人使い荒いからねー、何か押し付けられないといいね」
「じゃ、私達はお先に失礼しまーっす」

先生様にお呼びだしを喰らった私は友達三人に職員室まで送ってもらい、また明日、と挨拶をしてから溜息を吐いた。折角不二先輩とお話できていい日になったと思ったのになあ。そんなことを考えながらドアを二回ノックする。

「失礼しまーす、二年の朝比奈はるるです…」
「やっと来たか朝比奈。入っていいぞ」

此方に背を向けて自分のデスクに座っていた担任が私を手招きした。失礼します、と呟いて中に入る。職員室ってコーヒーのいい匂いがするなあ。

「はい、これ罰として居残って終わらせること。今度から気をつけるんだぞーははは!」

どさっ、と笑顔で放り投げられたのは十数枚のプリントの束。綴られてているのは古文という名の宇宙語。忘れてた、うちの担任は古典教師なんだった。そしてその科目は私が最も苦手とするもの。

「無理ですワカリマセン」
「やれ」

これを機に古典克服するんだ、と言われプリントと共に職員室から放り出された。あの人鬼だ。
取り敢えず終わらなきゃ帰れないのだから嫌でも何でもやるしかない。終わる気がしないけど。涙目になりながら立ち上がったその時だった。

廊下の向こうから歩いてきたのはジャージ姿の不二先輩。レギュラーのみが着ることを許される、あの青学テニス部レギュラージャージだ。
見惚れていると、不二先輩も此方に気づいたようでにこりと微笑んでくれた。

「よく会うね、はるるちゃん。職員室にお呼出し?」

話しかけられたこと、しかも名前を覚えてくれていたことに驚いた。言葉を発せずにいると、不二先輩は首を傾げる。

「え、もしかして図星?」
「うっ、お恥ずかしながら…。そうゆう不二先輩は…!」
「顧問の竜崎先生に用があってね」

ですよね、不二先輩がお呼出しなんてあり得ませんよね。恥ずかしすぎて赤面しながらプリントの束で顔を覆った。こんな醜態を見せることになるなんて。

「課題まで出されたんだ、凄い量だね。なんの教科?」
「古典です。本当に苦手で終わる気しなくて…」
「古典なら自分で言うのもなんだけど、得意だよ」
「え!?本当ですか!?…って、あ」

危ない危ない、何を言おうとしてるんだ私。教えて下さいなんて今日話したばかりの人、ましてや不二先輩になんて図々しすぎる。それに彼はこれから部活があるんだ。あまり引き止めちゃいけない、早く会話を終わらせよう…!

「そうなんですね、不二先輩流石ですそれでは部活頑張ってください失礼しますっ」
「良かったら教えようか?」
「お願いしますっっっ!!」

土下座する勢いで頭を下げるとはるるちゃんって面白いね、なんて不二先輩は笑った。面白くても何でもいい、藁にも縋る思いだ。それが藁どころか不二先輩なのだから、本当に土下座したいくらい有難い。

「部活終わってからになっちゃうけど平気?その頃には終わっちゃってるかな」
「寧ろ一枚も仕上がってないと思われます」
「あははっ、了解。じゃあ終わったらすぐに行くよ。どこでやってる?」
「図書室でやってます…!」
「じゃあまた図書室で」

それだけ言って不二先輩は員室に入って行った。後ろ姿もかっこいい。
学校の王子様、不二先輩と課題。
考えただけで優越感に浸ってしまうのは仕方が無いと思う。

「やったあっ…!」

恨めしく思っていた担任にも、今は感謝の気持ちでいっぱいなのだから本当に私は現金な奴だ。スキップでもしたいくらいにルンルンな気持ちで、図書室まで駆け出した。
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