キスミー・マイベイビー | ナノ

あの日


「はるる、絶対っ、負けないからねっ……!」
「わたしだって、譲れないもん!」

これだけは。


「じゃんけんぽんっ!!」

なっちゃんが出したのはチョキ。対する私はパー。

「よっしゃああ勝ったあああ!!はるる、ゴミ捨て行ってらーっ」
「なんで、いつも負けるのぉ……」

放課後、教室清掃。溜まったゴミを捨てに校舎裏まで行くのが面倒なのは皆同じで、いつもジャンケンで捨てに行く人を決める。因みに今まで全敗ですっ☆

「うわーん、重いよぅ」

ゴミが沢山詰まった大きな袋を肩にかけてよいしょよいしょと歩く姿は、まるでサンタクロースのよう。私チビだから、後ろから見たらゴミ袋が歩いているように見えるかもしれない。

「よいしょ、よいしょと。あ、山田せんせーっ、ゴミ持ってきたよ〜っ」
「あははっ、はるるちゃんはまたジャンケンに負けたんかあ」

お陰様でゴミ収集場担当のおじいちゃん、じゃなくて山田先生とも随分と仲良くなった。いつもニコニコしててね、凄く優しいんだよ。だからつい色々話しちゃうんだ。どうせまだ掃除が終わるまで時間はあるし、と近くにあった花壇の淵に腰掛けた。

「ねえねえ山田先生、恋って何味だと思う?」
「恋?はるるちゃんは誰かに恋してるのかい?」
「ううん、してないから分からないの」

昼下がり。鮮やかな花壇の花達をそよそよと仰ぐ風。今日は初夏にしては涼しくて気持ちが良い。「恋、ねぇ」山田先生はそう言いながら笑っていた。

「焦らなくて大丈夫だよ、ちゃんと誰にでも好きな人は出来るから」
「ん〜、でも私が恋するとか全く想像出来ないんだもん。このまま歳取っていく気がする…」

興味はあるけど、触れたことのない世界に踏み込むのは怖い。それに、私はやっぱりまだ色気より食い気。昔の人は食事も喉を通らないくらいに焦がれる、っていう歌をよく詠んでいたけど、私にもハンバーグより好きなものが出来るのかな。

「はるるちゃん、あのね。歳は取るものじゃなくて神様から与えられるものなんだよ。与えられた歳の中に、きっと素敵な恋をする歳もあるから、だから大丈夫」
「山田せんせー……」

恋は神様から与えられた素敵なもの、ってことかな。いいな、凄く神秘的で運命的。
そうだよね、焦る必要なんてないよね。ゆっくり時間をかけて、私だけの恋がしたい。

「山田先生ありがとっ……!お礼に教えてあげるね、カツラずれてるよっ……!」
「な、なんだと!?」

一生懸命カツラの位置を直す山田先生を見て爆笑。うん、取り敢えずは私にはこうゆう生活が合ってる。

「あはははっ、あーおかしいっ……!」
「はるるちゃんっ、いつまで笑ってるんだい!」

「山田先生、何を騒いでいるんですか」

あ、誰か来た。

「……え」

顔を上げると、そこにはあの不二周助先輩が居た。うわ、こんな近くで初めて見た。手にはゴミ袋を持っている。この人もジャンケンに負けちゃったのかな。

「遠くでも声が聞こえてきましたよ。あ、このゴミ捨てておいてもらえますか」
「おーはいはい。いやな、ちょっと恋愛相談所になっていたんだよ」
「恋愛相談所?」
「おお、そこの子のね」

わわっ、こっち見た。軽く会釈をすると、不二先輩はにこりと笑ってくれた。うひゃあ、近くで見ると更にその美形さが分かる。肌きれー!髪さらっさらだ!睫毛長っ!何もかも女の私なんかよりずっとずっと綺麗。皆が憧れるのも、凄く凄く分かる。こんなに近くで見れるのは最初で最後かもしれない。目に焼き付けておこうっと。

「片思いかあ、良いな。一番楽しい時だね」
「ははっ、流石、学校公認カップルは贅沢なことを言うなあ。因みにこの子は片思いをしているんじゃなくて、初恋もまだなんだよ」
「え、初恋も?」
「え、あ、はい」

いきなり話を振られて声が上擦ってしまった。は、恥ずかしい。興味深いとでも言うようにふぅん、と不二先輩は頷いた。高校生で初恋がまだ、ってそんなに珍しいことなのかな。

「名前は?」
「朝比奈はるる、です」
「はるるちゃんね。素敵な人に出会えると良いね」

クスリと笑って手を振った不二先輩に、小さく手を振り返した。やっぱり、素敵な先輩だ。勿論、一人の人間としてだけど。無意識に笑みが零れた。あとで不二先輩と話しちゃった、って皆に自慢しよう。
またいつか話せたら良いな。遠くなる不二先輩の背中を見て、そんなことを考えた。
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