キスミー・マイベイビー | ナノ

初めて


冬の大三角形を指で繋いだ。もしこれが冬の大四角形になる時が来るのなら、四番目の星はきっと、私の小さな想いのひと欠片。

section1.
Love comes by looking


騒がしい教室、お母さん特製の彩鮮やかなお弁当、恋する乙女達。いつもと変わらない昼休み、俗に言うコイバナとやらで盛り上がる友人達の頬は例の如く紅潮していた。

「はあぁ……。手塚先輩って何であんなにクールでイケメンで頭キレてテニス上手いのもうまじで手塚先輩の眼鏡になりたい」
「いやいや、大石先輩のあの温和で常に他人を思いやれる優しい性格っ!高校は離れちゃったけど、私は思い続けるから!ああ〜っ、やばい大石先輩のことを考えるだけでにやけるわ」
「はあ?大石先輩とか髪型ナイナイ。あれどうやってセットしてんの」
「髪型が何よ、ちっさい女ね!寧ろあの髪型で格好良いとか本当に顔が綺麗な証拠じゃんっ」
「年上趣味とかまだまだだね!これからは年下の時代だから。りょまたん可愛すぎる食べたい」
「さりげなく越前君のモノマネすんな」

周りの空気は桃色。和やかに、それはもう可愛らしくお互いの色恋話をしている……のではなく、終いにはそれぞれの想い人の貶し合いになり始めたので苺ミルクを飲んでいた手を休め、宥めに入った。全くもう、世話が焼けるんだから。ここは恋愛小説&漫画を日々読み耽っている恋の大先輩の私がっ!

「ほらほら〜、喧嘩しないの〜っ」
「恋愛スキルゼロのお子ちゃまは黙ってなさい」

ガーン。
ショックで静止していると、寧々ちゃんが笑いながら頭を撫でてくれた。うぅ、マイエンジェル。

私の周りの子達は恋をしている。しかも人気も人気の中学時代全国制覇を果たしたテニス部のお三方に。話を聞いていると辛いこともなかなかあるみたいだけど、それでも毎日嬉しそうに話をしている三人を見ると凄く羨ましくなる。好きな人の話をしている三人は可愛い。なっちゃんなんて、ここ最近凄く綺麗になった気がするもん。
ぶすりとフォークに刺したプチトマトを口に運んだ。甘酸っぱい。……そう、私ももう高校生活半ば。甘酸っぱい恋がしたい。

「恋ってトマトの味かなあ」
「トマト味なんて言っているうちは恋なんて出来無いわね」
「えっ、じゃあタコさんウィンナー味?それともまさか、ハンバーグっ…!?」
「食べ物から一旦離れろよ」

まあ仕方が無い。恋に恋するお年頃。そしてそれよりも花より団子なお年頃なんだ。未知の世界なんて、何も想像出来ない。恋は何色?何味?何の匂い?何も、知らないのだから。
またコイバナをし始めた三人を他所に、最後に取っておいた大好物のミニハンバーグを食べようと大きく口を開けた。その瞬間。

「きゃあっ!!目の保養が!!」
「うわぁっ!?」

いきなり興奮気味の友達に肩を揺すられ、ハンバーグは埃だらけの床へとダイブした。そんな。ケチャップという名の情熱の赤に包まれたハンバーグは、もう、帰っては来ない。帰っては……。

「瞑想に耽ってないでほら、見てみ!」

友達に再度肩を大きく揺さぶられる。目が回っちゃうよっ…。窓に群がる友達三人、それとクラスメート達。何事だろうと野次馬心が疼いて、私も便乗してひょこりと窓から顔を覗かせた。視界に映ったのは、二人の男女。

「ああ〜、今日も美しいわあ、不二先輩と美玲先輩」
「あそこまでお似合いだと嫉妬とか逆に馬鹿馬鹿しいよねえ」

中庭で楽しそうに話をしながら歩いている二人は、青学テニス部「天才」不二周助先輩と、青学ミスコンで二年連続優勝している泉美玲先輩。学園中の羨望の中心である公認カップルだ。
私も思わず見惚れた。わわっ、美玲先輩足細いっ。髪も綺麗なウェーブがかった茶色で、お人形さんみたいだなあ……。二人とも纏うオーラがきらきらしてるし、世界が違う。
幸せそうに微笑い合う二人が心底羨ましいと思った。いつか、私にもあんな風な素敵な恋人同士になれる人が現れるのかな。

恋の字も知らない、まだまだ青い私だからこそ、夢なんていくらでも見たい。
ベランダから二人を見ようと、生徒達が次々と集まってきた。そのせいで騒がしい頭上を、不二先輩が不意に見上げる。

一瞬だけ目があったような、そんな気がした。
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