女神はにやりと微笑んだ | ナノ

終焉への道のりは決して長くありません

「ねえ、そろそろ答えを出してくれないかな」

次の日の放課後はいつもの時間に進路室に向かわなかった。だからなのか、わざわざ下駄箱で待ち伏せてそう言った不二に殺意すら芽生えた。答えをそろそろ出せ?どの口が言っているんだ。あんたは気づいてなかったけど、私はあんたが私以外の子にも同じことをしてるって知っているのに。



「悠って誰」



噫呼違う、こんな恋人同士の喧嘩みたいな台詞を言おうとしたんじゃない。ただ、いつも男を振るみたいに酷い言葉を浴びせるだけで良いのに。俯く私に不二がクスリと笑ったのが分かった。



「見てたんだ」

「最低」

「何が?別に僕達は付き合ってる訳じゃないし、僕が誰となにしようが勝手でしょ」



不二の言う通りだった。離れて欲しくないなら初めから疑わずに付き合ってれば良かったのに。結局悪いのは不二でも男でもない。ずっと惹かれていた癖に信じようとしなかった自分自身なのだ。優しく微笑って私の頭を撫でてきた不二はやっぱり甘く誤魔化すのが上手い。彼は王子様なんかじゃなかった。毒を振りまいて私を溺れさせる、林檎売りそのものだったのだ。ぽろり、と何かが頬を伝う。涙だった。



「何で泣くんだい?君が何を考えているのか分からないよ。容姿しか見てくれない僕のことが嫌いなんだろ」

「不二だけは違うと思ってた」

「そんな勝手な理想、抱かれるのを嫌がってたのは君なのにね。人には同じことをするんだ」

「ごめ、んんっ」



続きは唇で塞がれた。不二の言う通りだ。あれほど私は人に容姿でイメージを決めつけられるのを嫌がっていたのに、不二に同じことをしていた。不二に告白される前は彼だけは違うんじゃないかと思い込んでいたのだから。いつもの荒々しいキスではなく、しっとりと重なった唇はしょっぱかった。



「君は初め、不二くらいの男なら違うと思ってた、って言ったね。何も違わないよ。僕だって男だし、可愛い子に惹かれたりするし美人な子は良いなと思う。でも君が知ってる今までの男と違うのは、それだけじゃ終わらないってこと」

「どうゆう意味」

「確かに君の言う通り一目惚れだったんだ。でも容姿が良ければ誰でも言い訳じゃないってことが昨日よく分かった」



自分でも君の言うとおりなのか分からなくなってね、君にしてることと同じことをそれなりに可愛い子に試してみたけど嫌悪感しかなかったんだ。どんなに「可愛い」って言い聞かせても、君みたいに愛しく感じなくて。だから、好きと思うのも、キスしたいと思うのも全部君だけ。ね、容姿が好きなだけならそうはならないでしょ?

そう言葉を紡いだ不二はまるで女神のように美しかった。私も同じだった。初めは不二にイメージを押し付けていたけど、容姿の良い子が好きなんて案外普通の男だと分かってもどんどん惹かれていく自分がいたのだ。その証拠に、彼はこんなにも楽しそうににやりと笑う。



「君に今まで告白してきた男達は本当に容姿だけ好きだったんだよ。「一目惚れ」の「一目」だけ。だけど僕は惚れるところまできた、って言えば、信じてもらえるかな」



もう今更意地になっても仕方がないだろう。肯定するために首を縦に振れば、不二は「嬉しいな」と言って私にまた深いキスをした。王子様なんて安いものは必要ない。私は彼の甘美な毒に溺れていくのだ。


これは美しい眠り姫と林檎売りの、とっても妖美な物語。




mae tugi

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