女神はにやりと微笑んだ | ナノ

堕天使は妖美に嗤って毒を撒く

私は彼を知っている。否、この学園で知らない人はいないだろう。ましてや女なら。
不二周助、私と同い年の高校三年。中学の時から全国クラスのテニス部でレギュラーとして活躍し、ついたのは「天才」という呼び名。成績だって学年で常に10番には入るほどのトップクラスであり、教師達からの信頼もピカイチ。そして何よりこの容姿だ。学校一の有名人と言っても過言ではない。そんな神様に愛されまくったこの男が私に告白をしてきたのだ。



「花神さん、聞いてる?」



やけに色気を含む青の目が私の目を捉えた。その目が好きだった。何を考えているのだか分からなくて、そのくせ自分は全てを分かっているかのように人を見る綺麗な目が。どんなに綺麗な女の子に告白されても微笑って謝るくせには目もくれず、周りに流されない。私に告白してきた男みたいに安くなくって、絶対に手が届かない、遠くから見るだけだった人。そんな彼だけが唯一男としてまともに見えたのだ。なのに、こんなにも簡単に彼に失望することなるとは思わなかった。やっぱり男なんてみんな同じだったのだ。



「聞いてない。わざわざ呼び出しておいて、何かと思えば付き合えとか訳わかんない」



そう言って睨みつけてやれば微かに彼が眉を顰めたのが分かった。ここで大抵の男は「そんな子だとは思わなかった」と去っていくのだ。初めから私の中身なんてみていないくせに、容姿のイメージを押し付けて。本当、こっちの身にもなって欲しい。それだけ綺麗な顔立ちした不二なら私より全然この気持ちが分かるでしょ。



「迷惑なの」

「……え?」

「不二くらいの男なら違うと思ってたけど、とんだ検討違いだった。現に、あんたは今の私にがっかりしてる。どうせ私の見た目に惚れたんでしょ?今まで話したこともないのに好きとか、どう考えてもそうでしょ。私はあんた達男のアクセサリーじゃない」



こんな飾り物獲得競争みたいな恋愛なら私は一生出来なくて良い。不二は何も言わなかったから、ほら図星すぎて返す言葉もないんでしょ、って思った。女の高嶺の花である不二が男の高嶺の花である私とくっつけば学園中の話題になるし、あんたへの名声も高まるだろうね。考えは良かったと思うよ。でも相手が悪かったね、ご愁傷様。「あんたと付き合いたがる綺麗なアクセサリーは他にも沢山いるんだから、明日にでもそっちを当たれば」と言って不二に背を向ければ、彼は低い声で「ふざけないでくれるかな」と言ってきた。



「はあ?ふざけないでって何。そっちこそふざけないでよ、安っぽい言葉に騙されるようなあんたの周りの女と私を一緒にしないで」

「『明日にでも違う女を当たれ』って本気で言ってるの?自分を軽く見るなみたいなことを言うくせに、考えていることは随分軽いんだね」

「それは今までの奴が皆そうだったからだよ。あんたに何がわかるの?偉そうな口聞かないで!」



好きだった青の強い瞳が今は苛立って仕方ない。なにも分かっていない癖に、全て分かったような口聞いて。私だって以前は人並みに恋愛へ対して興味があった。人を好きになりたいと思ったことだってあった。それがこんなにも恋愛に対して嫌悪感しか生まれなくなったのは、紛れもないあんた達男のせいなんだ。感情的になり、半ば無意識のうちに不二の頬に目掛けて手を振り上げた。ばちん、その音は私が彼をひっぱたいたから鳴ったのではない。彼の右手が、振り上げた私の手を掴んだからだ。



「随分と威勢がいいね」

「がっかりしたでしょ、憧れの可愛い子がこんなので。さっさと離してくれない」

「それは無理なお願いだよ」



苛立ちが最高潮に達して、自由な左手で彼のみぞおちに拳をお見舞いしてやろうかと本気で考えたその時だった。視界がぐらりと揺らいだのである。何が起きたのか頭のなかで考えるより先に、唇から伝わる生暖かい温度がその答えを告げていた。離せ、と言葉を発しようとするも唇を塞がれているのではどうにもならない。くぐもった自分の声が耳に入るだけだった。抵抗出来ないのを見て良い気になったのか、不二の舌が入り込んで口内を犯す。苛立ちも熱に溶かされて、唇が離れた時には息を乱すことしか出来なかった。



「もう一度言う。花神さんが好きなんだ、付き合って」



にやりと笑った不二がどうしようもなく憎らしく感じた。


mae tugi

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