「倉間さんー?そんな所で何してるんですかー?」

トイレから自分の教室に戻ってきた天馬は、入り口からちょん、と頭を覗かせて中を窺う水色を発見した。言うまでもなく倉間である。

「おわあああ!?って、ててて天馬!?」
「はい、そうですよー」
「ったく驚かせんなよ!…………まったく…………」
「す、すみません!で、倉間さんうちのクラスに用事ですか?」
「ああ、べ、別にっお前に用事があるからとかじゃねぇからな!?」
「ですよねー……」

キラキラとしていた笑顔がしゅん、とうなだれた。心なしか、羽根みたいな癖っ毛もしおれている気がする。倉間は慌てて「おい、今時間あるか?かっ、勘違いすんじゃねぇよ、別についでだからな!?」と尋ねた。

「……はい!」
「………………よし、ならついて来い」

そう言ってスタスタ歩き出す。倉間は背が低いせいでコンパスが短いので、必然的に足は速くなる。ましてや緊張しているなら尚更だ。もはや小走りと言っても差し支えないほど速く歩く倉間に懸命について行きながら、天馬は胸がドキドキするのを感じた。



「…………倉間さん、一体どこへ行こうとしてるんですか?」
「…………ハッ、まさかまた迷ったのか俺!?」
「ええっ!?」

どうやらまた迷ったらしい。とりあえずどこへ行こうとしていたのかを尋ねると、「…………屋上だよ文句あるか!?」と返された。

「屋上だったらこっちですよ!」

特に気にした風もなく倉間の手を引っ張って屋上へと向かう。実は正反対の方向へと突き進んでいたなどとは、彼のプライドの為にも言わない。
途中途中で向けられる生暖かい視線を躱しながら進み、着いた先の扉を開けた。

「うーっ、いくら暖かくなってきたといっても、やっぱまだ寒いですねー!」

それで、どうしたんですか?くるっと後ろを振り返り首を傾げて問う天馬に、倉間は一旦扉を閉め、手を引いてスタスタとフェンスへ向かう。

「え、え?倉間さん?」
「…………そこに座れ」
「はい?」
「いいから、そこに座れって言ってんの!」
「は、はい?」

怒ったように告げられたので、とりあえず言われた通りに座る。

「あ、あのー……とりあえず座ってみましたけど……」
「ん、良し」

すると何故か満足げな顔で頷き、今度は自分のポケットを漁り始める。
謎の行動について行けなくて、天馬はぼーっと倉間を見ているしかなかった。

「ん」
「わわっ!?え、何ですかこれ?」
「こないだの礼だ。」

ようやく見つかったらしい包みを引っ張り出して、ぼーっとしていた天馬の方へ放る。投げられた天馬は、慌ててキャッチし、「お礼?」と頭に疑問符を浮かべた。

「…………こないだのチョコだよ。今日何の日か分かってんのか、お前」
「へ、今日って3月14日………って、ああ、ホワイトデー!?」

慌てて顔を上げ、普段より高い位置にある倉間の表情を見ると、顔を真っ赤に染めていて、「あ、あん時お前が食わせてくれなかったらヤバかったからな!それ以外に意味はない!」と一気にまくし立てた。

「は、はあ……………それだけ、ですか?」

ちょっと寂しそうな顔をする天馬に、倉間は慌てて言う。

「ちっ、ちげえ、っつーか、あれだ、それだけじゃなくて、えーと、あーもう面倒くせぇ!」

急にぐしゃぐしゃと頭を乱暴にかきむしり、改めて天馬に向き合う。きょとんとしている彼の髪をわしわしっと撫でてから上へ向かせ、口付けた。

「!?」
「………………………………分かったか」
「………………………………分かりました、あのセリフが照れ隠しだとか、そーいう事も」
「そーかよ」
「でっ、でもあの、さっきどきどきしすぎてよく分かんなかったのでもう一回してもらってもいいですか?」
「………………………………ああ」

何回かキスを交わす内にチャイムが鳴り、授業が始まってしまった。

「あ、授業、始まっちゃった……」
「別にいいだろ、サボれば……」
「……はい、倉間さんもいっしょ、ですよね?」
「……当たり前だろ、バカ」

そして二人は抱き合ったまま、微笑んだのだった。





方向音痴とホワイトデー





方向音痴倉間さんでホワイトデーネタ。
倉間さんデレすぎです。ま、いいけど。
特に書き足したりした所はないですが一応加筆修正したと言ってみる。←


2012/03/14up 2012/06/27加筆修正

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