「きょーのおやつはなーにかなー?」 ふんふんと鼻歌を歌いながら、てんまは買い物袋をぶら下げて尻尾をふりふり、家へと歩いていました。弟のたいようは今日は家で留守番なのです。 「ん?あれ、これ何だろう?うろこ?」 道路のはしっこから淡い緑色の長い何かが飛び出ているのを見て、元々好奇心いっぱいな子犬のてんまは期待に目をキラキラ輝かせ、くいっと引っ張ってみました。 「っっぎゃああああ!?」 「!?」 間近で悲鳴が上がり、出てきたのは男の子。どうやらこの細長いもの(尻尾)の持ち主のようです。その男の子は涙目で「放せ!」と威嚇していますが、なにしろそんなもので怖がるようなてんまではありません。もの珍しそうに握った尻尾をあちこち引っ張りながらじっと見つめると、どうやら恥ずかしくなったのか、その男の子は「こっち見んじゃねぇよ!」とぺしぺし頭を叩こうとしてきます。しかし、手は届きません。 「ねぇねぇきみ何ていうの?どんなどうぶつ?」 「うっせえ!…………腹、ヘった………」 くきゅうう、と可愛らしい音を出したお腹をおさえ、男の子はばったり地面に倒れてしまいました。 「ただいまー!」 「おかえりてんまー!!」 「おう、帰ったか」 元気よく扉を開けたてんまに真っ先に反応して、玄関へ走っていくたいよう。剣城はそれを内心微笑ましく見ていたら、急に素っ頓狂な声が上がり、「て、てんまそれどうしたの!?きょーすけくーん!!はやくきてー!!」というたいようの叫びが聞こえてきました。何だろう、と訝しげに思いながら玄関を覗き込んだ剣城の目に映ったのは、てんまから買い物袋を受け取った困惑顔のたいようと、何か、水色の髪の男の子を背負ったてんまでした。 「………………………………元々あった所へ返してらっしゃい!!今すぐ!!」 「ええええ!?」 「き、きょーすけくんそれはないよ!?」 剣城の口から発せられた衝撃的なセリフに一同驚きます。 「きょーすけ、あのね、この子きゅうにたおれちゃったんだよ!バタンって!どうにかできない?」 「……倒れた?」 「うん、どうしよ……」 「とりあえず寝かしとくか。いや、でもこいつがどういう動物か分からないし……おい二人とも病院行くぞ、準備しろ」 「え、びょーいん?なんで?」 「なんでって、こいつの容態を見てもらいに、だろうが。ついでにお前らの健康診断もやるからな」 「つまり、きょーすけはこの子、たすけてくれるんだね!」 「…………まあな」 その言葉を聞いた二人は、途端に嬉しそうな顔になりました。 「わーっ、ありがとうきょーすけ!」 「きょーすけくんやさしい!」 「分かったからお前ら抱きつくな!せめて荷物置け!」 照れ隠しにわざとぶっきらぼうにそう言って、剣城は出かける支度を始めました。 「それで、こいつが何なのか分かりますか?」 「うーん……はっきりと特定出来ないな、蛇の一種、としか」 「蛇ィ?」 蛇って尻尾以外にも手足があるものなのか?という疑問が剣城の顔に出たのか、医者は解説してくれました。 「まだ断定は出来ないけど、おそらく蛇だ。尻尾を見る限り爬虫類であるし、何よりてんま君が尻尾掴んだ時それ程抵抗しなかった、いや、出来なかったというのが決定打だな……」 「それだけで……?」 「まあな。とりあえず疲労で気絶しているだけだから大丈夫だ、てんま君もたいよう君も異常はなし、と」 「ありがとうございます」 「ふふ、ちゃんと構ってあげるんだよ?」 そう言われ、剣城は何か返事しようとしましたが、その前にてんまとたいようが飛びついてきて結局何も言えませんでした。 「は?そう言ってたのか?」 「うん、なんか『はらへった』っていってたおれちゃった」 「…………仕方ねぇ。一旦綺麗にして寝かしとくか」 そんなこんなで、家に帰った剣城はてんまが拾ってきた男の子を綺麗にして布団に寝かせました。てんまとたいようは二人仲良くお鍋の火の番をしています。とりあえず何か作ろう、という事で晩ご飯のシチューを脇に寄せ、華麗なフライパン捌きで次々とホットケーキを焼いていきます。 「お前ら、火の番はもういいからあいつの様子見といてくれ」 「「はーい!」」 そういう訳で、てんまは謎の男の子の傍に座っていました。たいようは剣城の手伝いをしています。 「……………う………っ、どこだ、ここ…………」 「あっ、起きた!」 呻き声を上げ、目を開けた男の子はここがどこだか分からずしばらくぼーっとしていました。そこに目を覚ました事に気付いたてんまが顔を覗き込んできたので、すごく驚いて叫び声を上げました。 「うわあああ!急に何だお前は!つーかここどこだ!?」 「よかった、目をさましたんだね!オレはてんま!きみのなまえは?」 「はあ?何でお前に名前なんかおしえなきゃならねぇんだよ!………う、あ」 「わああ!だいじょうぶ?おなかへってるでしょ?今きょーすけがごはんつくってるからもうすこしまってて?」 「………なんでお前、俺が腹減ってるって知ってんだよ」 「だって、『はらへった』って言ってオレの方にたおれてきたんだもん。びっくりしたよー」 「なっ!……つーことはお前、あの時俺のしっぽ引っ張ってた……!」 ぎろり、と男の子がてんまを睨むと同時に扉が開いて、たいようとお盆を持った剣城が入ってきました。「あっよかった、目がさめたんだね!」とたいようも同じ事を言います。 「何があったかは知らんし聞かねえけど、とりあえずこれ食べろ。腹減ってんだろ?」 そう言って剣城が差し出したのは、先ほど焼きまくったホットケーキが載った皿。狐色の表面には、黄金に輝く溶けかけたバターと、琥珀色のシロップがかかっています。 「だいじょうぶだよ!どくなんて入ってないよ!」 「きょーすけのホットケーキはせかいいちなんだよ?」 「オイこらたいよう、今の発言はどういう意味だ?あ?」 「わああっ、ごめんなさい!」 剣城がたいようの頭を軽く小突いたりしている傍ら、てんまは男の子をじーっと見ていました。男の子は、フォークに刺したホットケーキを一かけ目の前に運び、ふんふんと匂いを嗅いでいます。 「……………………んまい。」 「…………!!やったよたいよう、きょーすけ!たべてくれたよ!」 「えっホント!?」 「あー、お代わりは沢山あるから遠慮なく食えよ」 はしゃぐ二人を尻目にそう言った剣城の言葉に、無言で頷きました。 「で、だ。さっきも言ったように、お前の事情は無理に聞こうとは思わない。けどな、名前くらいは教えてくれ。呼ぶとき困る」 そう言った剣城に、てんまとたいようもホットケーキをむしゃむしゃ頬張りながらうんうんと頷いています。男の子はちょっと顔をしかめましたが、名前を教えてくれました。 「…………くらま、だ」 「くらま?」 「くらまくん?」 「へびの?」 「わああなんかかっこよくない?」 「だよね!」 名前を教えてもらった嬉しさからか、きゃいきゃいはしゃぐ子犬の兄弟。口々に誉める(?)ものだから、くらまの頬は真っ赤になっています。 「うわあああうるせえなお前らー!」 とうとう耐えきれなくなったのか大声を出しましたが、二人ともにこにこと見つめてきて、さらに真っ赤になったようです。 「おいお前ら、ちょっといいか?」 「なあに?」 「あんだよ」 「どしたの」 「お前、蛇、だよな?種族とか何なんだ?」 疑問を投げられたくらまは、「………まあな」と返事をしました。 「蛇と言っても、俺はヨコバイガラガラヘビだ。毒があるからな、お前ら俺に近づくなよ?」 「え?」 「どくがあるの?」 「って、ちょっと待てぇぇぇ!!何で日本に生息していない筈の蛇がこんな所にいるんだ!?」 「………………、俺の元飼い主の趣味だ」 「一体どんな趣味してんだよそいつ!?」 「ねーねーきょーすけくん、ボクいいことおもいついた!」 「あ?何だよ」 「あのね、くらまくんもいっしょにすんだらどうかなって!だって行くとこないんでしょ?だったらうちでいっしょにくらせばいいじゃない!」 「はあ?なんで俺がお前らなんかと……」 「でももともとのかいぬしさんのとこにはいけないんでしょ?だったらうちにいなよ」 「おいてんままだコイツが元の家に戻れないと決まった訳じゃ」 「ねぇきょーすけ、だめ?」 「きょーすけくん……」 二人分の期待にキラキラした眼差しを受けて、剣城の理性は踏ん張ろうとしますが、所詮剣城も人の子。小動物の放つうるうる光線にはかなうはずもありません。結局折れてしまいました。 「おい、まだ俺ここに住むと決めたワケじゃ」 「じゃ、けってーい!あらためてよろしくねくらまくん?」 「よろしくねくらまさん!」 「なっ、ちょ、ええええ!?」 こうして、本人の意志とは関係なく、蛇のくらまが剣城家の一員になることが決定したのでした。 剣城さんちに家族が増えました。 わんこ雨天京+のりさん。のりさんとの出会い編。きょーすけのホットケーキはせかいいち!説もここからきています。 しかしヨコバイガラガラヘビ飼うなんて一体どんな趣味してんだ南沢さん(笑)← 2012/03/19up |