「霧野先輩、本当にここ、入るんですか?」 「当たり前だろ、せっかく遊園地に来たからにはこーゆーとこ入っとかなきゃ損、だろ?」 「だからって、他に行くところありますよね!?例えば観覧車とか、ジェットコースターとか、コーヒーカップとか!」 「観覧車は一番最後に行くつもりだから却下。ていうか天馬、絶叫系平気なのに何でここは駄目なわけ?」 「だってっ……、俺、お化け苦手なんですよーっ!!」 青空に響く天馬の絶叫も虚しく、ずるずると遊園地のアトラクションの一つであるお化け屋敷へと連行されていった。 真っ暗闇の中。天馬はびくびくしながら、前を行く霧野の背中を追っていた。 「霧野先輩……やっぱり帰りましょうよ……」 「やだ。もう入ったもんはしょうがないし、いい加減腹くくれ、天馬」 「そ、そんな事言われても……」 その時、天馬の右手側からにゅっと腕が飛び出、悲鳴を上げながら近くにあった物を掴む。 「ひぎゃあああああ!!!!」 「落ち着け、天馬、大丈夫だから!」 「いやあああああ手!!今手がああああ何で霧野先輩は平気そうなんですかああああっ!!!!」 「……そりゃー天馬の悲鳴にびっくりしたからなぁ……」 よしよし、と頭を撫でられハッと我に返る。恐る恐る自分の掴んでいた物は…………霧野の腕であった。 「わ、ああああっ、すすすすみません霧野先輩!今すぐ手を離しますから!」 パッと霧野の側から離れるが、やっぱり怖いらしい。恐る恐る、といった風情で自分の後ろをついて来る天馬に苦笑し、「怖いなら、腕、掴んでていいぞ?」と手を差し出した。 「えっでも……変に思われません?」 「どうせここは真っ暗だし、分かんないだろ。それに、お前が怖い思いするのと比べるとこれくらい軽いものだし」 「そう思ってるんなら、最初っから入んないで下さいよ……」 「いやー悪い悪い!」 あはは、と笑いながらも天馬を腕にしがみつかせたまま先へ進む。所々段差があり天馬はつまずきそうになるが、霧野がさり気なくフォローする為転びはしなかった。 「天馬、お前お化けが苦手なのか?」 「うー、苦手というか、完全トラウマですね……」 昔、沖縄に住んでいた頃、肝試しで夜中あちこち練り歩いたのだが、昔の防空壕内で、当時の話を聞かされた挙げ句その途中でうめき声やら何やらが聞こえ、奥の方から血まみれの顔がにゅっと出てきて腕を掴んできたもんだから泣きながら逃げ、もう完全にトラウマである。他にも色々あるが、最もインパクトが強かったのはここらしい。 「そうか……それは災難だったな……」 「もう、大変だったんですよ!今にして思えばあれも演出だって事くらい分かるんですけど、それでもやっぱりあの日以来無理なんです、お化けとか!」 すみません、俺って全然男らしくないですよね。と、きゅっと袖を握りながら言うが、そんな事はない。むしろ可愛らしく、言っちゃなんだが、霧野は結構な萌えポイントとさえ思っている。 「大丈夫だ、天馬。誰だって苦手な物は一つや二つくらいある。そう気に病むなよ」 「…………霧野先輩にも、あるんですか、苦手なもの」 「ああ、天馬に泣かれるのとか、な」 「え…………」 そう言ってやると、天馬は顔を真っ赤にして、腕を掴んだまま俯いてしまった。 「霧野先輩……おれ、はずかしい、です…………」 「そうか?結構本気だぞ?」 「…………もうやめて下さい…………」 「はははは」 端から見れば怖がりな弟が姉の腕に縋っているように見えなくもないが、彼らは一応男であり、恋人同士でもある。 「ほら、出口が見えたぞ」 「あっほんとだ、良かった……!」 半泣きの顔で自慢の俊足を生かし、出口へと向かう天馬だが、あまりにもこの建物から出ることに夢中になっていた為、気づかなかった。脇の方から伸びてくる、得体の知れない物の存在に。 「天馬、左!左を見ろ!!」 「え、左?………ってうっきゃあああああああ!?」 その得体の知れない物は天馬が左を向いた瞬間体をひっつかみ、抱き込んできた。間近に化け物の姿を見、半狂乱になっている。というか、泣いている。 「天馬を放せこのデカブツぅぅぅぅぅ!!!!」 気づいた時にはもう、天馬を抱き込んでいる得体の知れない化け物に向かって走り出していて、その横っ腹に鋭い廻し蹴りが炸裂していた。どう、とのめる巨体から天馬を確保し、「大丈夫だったか?」と顔を覗き込む。 「霧野せんぱい…………こわかったですぅぅぅぅぅ!!」 「おーよしよし、あいつは俺が倒したから、もう泣くなよ」 「ふえええ…………」 天馬を宥めながら出口へと向かう。その途中で、しっかりと抱きしめた。 「もう大丈夫だから、な?元気だせって」 「はい………先輩、ありがとうございます…………」 「そうしょげんなって、仕方ないだろトラウマは。今すぐどうこう出来るわけじゃないし、俺が天馬でも、多分パニクってたと思うし。だから元気出せ!」 そしてちゅっと額に唇が落とされ、暗闇の中でも分かるほどに真っ赤になる天馬の頬。それを見て霧野はにこりと微笑むとくしゃっと頭を一撫でし、手をつかんで出口へと導いた。 「心配するな、天馬が怖がるものは全部、俺が払ってやるから!」 ようやく見えた出口で振り返った霧野の顔は、男と見るには余りにも中性的だったが、その碧い瞳はとても漢らしかった。 それは例えるなら、緑のような (紅[あか]にも、蒼[あお]にも染まらない春の碧空)(先輩かっこよかったです……男前でした!) (待てこら天馬、それってまるで俺が女みたいな言い方だな?) (あわわわすみません失言でしたー!) (だったら天馬からちゅーしてくれたら許す) (え、ええー!?) 蘭天の日記念で、いつか書いたお化け屋敷デート妄想を膨らました結果。天馬がこんな怖がりだとは思いませんが、まあ、見逃してやって下さい。こんな兄弟みたいな蘭天も好きだけど。しかしお化けが空気。 一回しかないお化け屋敷の記憶を掘り返して書きました(笑)あれは地味に怖かったからな…… ちなみに最後らへんのお化けに廻し蹴りは幼稚園のころやった肝試しで私が実際にやりました← それでは蘭天の日おめでとう! おまけ |