「太陽ー、来たよー?」 ひょこっと病室を覗いてみると、ベッドの上には誰もいない。まさかまた抜け出したの!?と思った瞬間、背中に暖かい物が降ってきた。 「てーんまっ」 「わあっ、太陽!?」 「そーだよ、僕だよー」 「もーいきなり抱きついてくるなよー、びっくりした、太陽がいなくて!また抜け出しちゃったと思ったじゃない!」 「あはは、せっかく天馬が来てくれるって時に、病室抜け出すバカはいないよー」 「どの口がそんな事言ってんのさー!」 「んー、この口?」 「もー!」 くだらない話をしながら部屋に入る。天馬は、太陽に抱きつかれたままベッドにダイブした。 「天馬ー、『愛してる』って言って?」 「なっ、何を言ってんの?」 かああ、と真っ赤になる顔を隠そうとするが、抱きしめられているせいで至近距離に太陽がいて、「わー天馬真っ赤になってる、可愛いー」等と言いながら顔を覗きこんでくるものだから隠しきれなかった。 「んもー、からかうなよ太陽ー!」 「からかってないって、僕は本気だよ?」 ねえ、言ってよ。じゃないと僕、死んじゃうよ?そんな物騒な言葉でせっついてくる。 「ちょっと、それは大げさすぎない?」 「大げさじゃない、ホントだよ。人はね、愛がないと寂しくて死んじゃうんだよ?」 「ええー…」 疑わしそうな表情で太陽を横目で見る。太陽は、ふふっと笑って天馬の頬に自身の頬を擦り寄せてきた。 「天馬、僕はね、サッカーさえやっていれば、病気だとかなんて忘れる事ができた。でもやっぱり、なかなかチームで試合できない僕は一人ぼっちだった。そんなの、気のせいだってごまかそうと、ますますサッカーをやったけど、病気が悪化して医者に止められてね。そんな時に見た雷門の、君のプレイが僕を変えた。一人ぼっちで、寂しくて、灰色だった僕の世界に、君が光と熱と、色をくれたんだ」 そっと、天馬の頬に触れ、太陽は寂しそうに笑う。その表情に、天馬は何も言えなかった。 「僕は、天馬が好きだ。君が、僕に振り向いてくれないのは分かってる。でも、ねぇ、お願い、嘘でもいいから、『愛してる』って言って?天馬のその言葉さえあれば、あの約束と一緒に胸に納めて、僕は生きていけるから」 切なそうな目で、太陽は言う。けれど、天馬は首を横に振った。 「ごめん、太陽。俺は、あんまりそんな言葉を軽々しく使いたくないんだ。例え、嘘でも」 「天馬……」 彼は、天馬が他の誰かを好きだと思っているが、それは違う。先ほど神童から似たような言葉を言われたが、神童は尊敬できる先輩であって、断じて付き合っている訳ではない。 だから、言う。自分の本当の気持ちを。 「……………………太陽、愛している、よ?」 だから、嘘でもいいなんて言わないでよ。そう、泣きそうな顔で言ったら、太陽は涙をぽろぽろ零し、天馬に抱きついた。 「天馬……!」 太陽とした初めてのキスは、しょっぱくて甘い、涙と愛しさの味だった。 『愛してる』って言えなくて ver.A 「ねぇ、何で軽々しく言わないの?僕に言う分には減るもんじゃないのに」 |