天馬から、目が離せない。べべべ別に恋とかそんなんじゃなくというか俺と天馬はそもそもそのこっ、恋人…というやつで、そういう意味で目が離せないてのは1ヶ月前までの話でっていやいやいや、これはどうでもいい、どうでもいい! とにかく、俺は天馬から目が離せなかった。なにせアイツの鈍感と人懐こさの相まった馴れ馴れしさといったらない。西園はいい、影山もまあ微笑ましいレベルだ。だけど狩屋や、ましてや剣城なんざ論外。先輩にあたる2年3年には少しばかり成りを潜めるそれも感極まればどこ吹く風で、すごいですっ、なんて腕に絡みにいくのだ。そりゃあ俺も、恋人関係になるまではやられたって悪い気はしなくもなかったが、今、俺以外にそれをやるのはあまりにも危険だろう。 「すごいですキャプテンっ!」 シュート練のさ中、見事にゴールを決めた神童のなぜか行動パターンを把握しきったようにとろけた笑顔で迎える両腕の中へ飛び込んで行きかけた天馬の襟首を腕をいっぱいに伸ばしひっつかんで制す。急な衝撃にうえ、とうめいてから涙目でこちらを振り向くのは良いが、こいつ今一瞬真っ直ぐ振り向いた所に見えない俺を探しやがったなちくしょう。 「倉間せんぱい?どうかしました?」 「どうかしました?っじゃねえ!もう少し自覚持てっていってんだろうが!」 ぱちりぱちりと驚きでまたたきながらもどことなく嬉しそうな天馬の肩越しから降る、神童のじっとりと湿気をもってまとわりつく殺意にもめげず怒鳴りつけるとやっぱりなにもわかっていない顔で、なんでですか?と小首を傾げた。こいつは本当に俺と同じ男子中学生という生物なのか?とうろたえかけたが首をひと振りしてぎりりともともと悪い目付きを鋭くする。 「お前から抱きつかれると他のやつらがちょ、調子乗んだろ!」 「えっ、そうなんですか?」 天馬の視線が俺から外れて自分へ向いた瞬間に嘘みたく晴れた殺気の代わりに、ふわっふわの綿菓子みたいな甘さを侍らせてそりゃあファンの女子が真正面から見たらぶっ倒れそうな神々しさで神童は笑った。 「ああ…そうだな。天馬が抱きついてくると調子がいい」 「俺が…そうなんですか。ペガサスの効果かなぁ」 神童の少し外れつつもあながち間違っていない意見が自分の、天真爛漫で真っ直ぐなすべてからの恩恵だとは思いもしないらしい時々腹立たしいほどの謙虚さでむむむ、と考え込んだ天馬はひとしきりそうしたあと眉間の皺を着々と増やしていた俺に、やけに真剣な顔で向き合う。 「倉間せんぱい、失礼します」 「は、」 目の前が真っ暗で、頭は真っ白で、おそらく顔は赤い。さっき勢いで神童にしようとしたみたく、俺は天馬からぎゅううと隙間なく抱きつかれていた。…一応言っておくが、はた目からはいくら抱き締められている体勢とはいえ抱きつかれてる、んだと主張する。プライド的にこれはでかいから。 「なっ、な、なななな」 「ど、どうですか、せんぱい」 「なにがだよっ!」 痛い痛い視線がいてぇ! 三、四ほど生ぬるいものは混ざっているが、ほとんどが鋭利で絶対零度の代物で、熱くなる頬とは裏腹に背骨が急速に冷えていく。 このままでも十二分に痛いがおそらく天馬から離れた瞬間、的確すぎるほどの急所に必殺技か化身シュートを叩き込まれそうな予感がしたので離れる、という選択肢は本能が削除してしまっていた。 「倉間せんぱい、最近なんか集中出来てなくて調子が悪いみたいなんで…俺でも役に立てるかなあ、と思ったんですけど」 そりゃあおまえ、おまえから目が離せないからだよ!とは叫べない。なんだこのおかしなループ。心配されたことも気にされていたことも嬉しくないこともないが、この熱さどうにかしろよ、責任とれよ離れんな、なんてこの時点で俺の脳みそはだいぶ沸いていた。 「…思った、んですけど、なんかせんぱいをぎゅうてしたらドキドキしすぎて…俺が調子、おかしくなりそうで、ふっ…!?」 ぱあん、て今まで繕っていた常識人の枠が破裂する音がして、恥ずかしさに気づき始め緩んだ抱擁の隙をつき襟元を引き寄せ、キス、を、してしまった。夢にまで見た柔らかさが思考ぜんぶを占めて見開かれた青の近さに酔う。なんかどうでもいい、天馬がいれば。などと常はドン引きしている神童的思考に片足を突っ込んだところで途端に浮かれた脳みその熱が急激に下がり、自分がしでかしたことに気づいた。 「くらまさん…」 「ばっ…!ばっ…!」 ぱっと手を離した先の瞳が濡れていて尚も近い。熱に浮かされた表情が視界いっぱいに広がって、他は何も見えなくなった。身体中に突き刺さっていた殺意もどこか呆然としていて、邪魔するものなんてなんにもない感覚に陥る。 「てんま…」 もう一度、だけ。そんな欲がもたげる。思えば付き合いはじめてからこんなに近づいたのは初めてで、俺にしてもこいつにしてもただ近い、という点だけで興奮していた。 「……はっ、ハーモニクスうううう!!」 泣き声と風切音。動揺に狙いが定まらなかったのかひゅん、と頭すれすれを掠めていっただけだったが、さすがに現在の状況を思い出すには十分な威力だった。ふたりして我にかえって、ふたりして顔を真っ赤にして、ふたりして一目散に駆け出す。何から何まで恥ずかしすぎてなにも見たくも考えたくもなかった。 「にっ、にげんぞ天馬!」 「もう逃げてますううう」 隅から隅まで熟れたトマトより赤く染まった顔を両手で覆ってひいいい、と悲鳴まがいの奇声をあげる後ろから俺目掛けて豪華すぎる必殺技が叫ばれている。明日からどんな顔して練習に来ればいいんだ、これは。 「く、倉間せんぱいっ」 「っ、な、なんだよ…!」 「あのっさっきのでわかった、んですけど…俺なんか、倉間せんぱいが好きすぎてつらいですっ……!」 「…っつ!お互いさまだ、ばか!」 だからお前も俺だけ見てればいいんだ。俺がお前からずっと目を離せないみたく俺にずっとずっと恋してろこの鈍感バカ! (明日知らずの逃走劇)企画に便乗してみたら予想以上に素敵すぎるものが返ってきました。ひゃあああのりさんも天馬きゅんもかわいい///ぶっとびジャンプどころかかっとんでった倉間さんが可愛いすぎますひゃああああ/// カア子様、本当にこんな、可愛くて素敵な倉天をありがとうこざいますー!家宝にしますー! |