※倉間さん半人半蛇設定。



ある晴れた日、雷門サッカー部は、今日も元気に練習していた。

攻撃と守備、二つに分かれて練習していた時、激しくぶつかり合った衝撃に耐えきれず、倉間の小柄な体躯は吹っ飛んだ。

「つッ痛ぇ…」

受身をとったのはいいが中途半端だった為、体の左半分がモロに地面と激突してしまった。

「大丈夫ですか!?」
「おーい大丈夫か、倉間ー!」

真っ先に駆け寄ってきたのは天馬。その後ろからは他のメンバーも走ってくる。大丈夫だ、と答えようとしたら、顔の左側に激痛が走った。

「ッ……!!」
「く、倉間先輩ッ!?」

思わず顔を抑えてうずくまる。それを見た天馬達はやっぱりケガしたんだ、保健室へ連れて行け!等と騒いでいる。
痛みの原因を探るために、前髪に覆われた顔の左半分に手をつっこんでみた倉間は、違和感に気づいた。

「……ゲ、鱗とれてる」

思わずポツリと呟いてしまった倉間の言葉に、天馬がすぐさま振り向く。しかし他の部員には聞こえなかったらしい。

「え、どーいう事ですかそれ」
「どーいうも何も、そのままの意味。ヘビの鱗っつーのは一つに繋がってるから、フツーははがれる事なんてねーんだけどなー…」

痛みに顔をしかめつつ、倉間はひそひそ声で話す。その左手には、おそらく剥がれたのであろう薄青い鱗が一枚のっていた。
それをじっと見ていると不意にポタリ、とその手に赤いものが一滴落ちてきた。見ると、顔から血が出ている。

「わーッ倉間さん、血!血ィ出てますよー!?」

慌てた天馬の大声に皆反応し、騒ぎに発展した。当の本人は「んなモン唾つけときゃ治るだろ…」と迷惑そうに言っていたが、有無を言わさず保健室に連行された。天馬付で。

「ったく、転んでケガした位で大袈裟だっつの…」
「頭打ってしかも血まで出てそれでも保健室に行かない人がどこにいるんですか!」
「お前とかな」
「ひ、ひどいです!!」
「つか、そもそも何でお前までいんだよ」
「何でって…手当て兼見張り役、ですねー。ホラ、そんな所だと一人じゃバンソーコーも貼れないでしょう。かと言って他の人に見られる訳にもいきませんし…」
「…お前にしちゃマトモな判断だな…」
「もー!けなしてんですかそれ?」
「褒めてんだよ」

あーだこーだ言い合いながらもさっさと傷の手当てをしていく。

「…ところでコレ、どうしましょう……」

傷の上に絆創膏を貼り(鱗にくっつくか分からなかったが何とか上手くいった)、散らばった救急セットを片付けながら天馬が尋ねた。

「捨てるに決まってんだろ。ゴミ箱どこだ」
「ええっ、捨てるんですか!?」
「持っていたってしょうがねぇだろ、何かあんのかよ?」
「いえ…そんな所に捨てたら、変に思われません?」

こんな所に鱗が捨てられているなんておかしいですよ、と言うと、倉間は「んな小っせェモン、誰も気にしねぇだろ」と答え、保健室のゴミ箱にぽいと捨てた。




数日後。

「ねー天馬、それなぁに?」

信助がそう言いながら覗きこんだのは、天馬の手元。慌てて隠そうとするが、阻止されてしまった。

「これはねー、えっと、俺のお守りなんだ!」
「お守り?」
「そう!色んな事が上手くいきますようにって。幸運のお守りなんだよ!」
「へー、そうなんだー。でもこれ、鱗じゃないの?何の魚?」
「いやこれ魚じゃなくて蛇っぽくない?」

横からズイッと狩屋が顔を出してきた。驚いて飛び上がる二人である。

「か、狩屋!急に出てくんなよ!」
「ごめんごめん。で、何話してたの?」
「んっとねー、天馬のお守りの事!これがそうなんだって」
「…蛇の鱗が?天馬くん…」
「な、何だよその目は!いいでしょ別に!」
「なになに?」
「天馬、どうした?」
「あ、霧野先輩にキャプテン!」
「何してんだ、お前等ー」
「三年生の先輩たちまで!」
「天馬のお守りの話してたんです!ね、天馬?」
「え、あ、うん…」
「ふーん、お守り、ねぇ…さっき蛇の鱗がどうとか聞こえたけど」
「何ですかー霧野先輩、もしかして蛇とか苦手なんですかぁー?」
「ウルサイ狩屋」
「へ、ヘビ…?」
「蛇の鱗が…?」
「あ、ハイそうです!えーと、俺の故郷にハブ酒ってあるんですけど、そこに浸かっていたハブが結構キレイで、おっちゃんに言ったら一枚くれたんですよー」
「ハブって…あのハブ?」
「へぇキレイだなー…っちゅーかハブって?」
「浜野先輩!?」

急に横から生えてきた浜野にまたしても飛び上がる天馬。その脇で速水がツッコミをいれる。

「沖縄に生息する猛毒をもった蛇です。ほら、ハブ対マングースって」
「ああーそれか!」
「うわ速水…お前らいつ来たんだ…?」
「ついさっきですよ」
「…二人とも、倉間はどうした?姿が見えないが」
「もう少しで来ると思いますけど…」
「そ、そろそろ着替えて練習しましょうよ!」

そう天馬が言い、財布をしまった時、扉が開いて倉間が入ってきた。

「何だお前ら、まだ着替えてねーのかよ」
「おー倉間ー!今ちょっと天馬のお守り見してもらってたんだよー!」
「はあ?」
「ちょっ、浜野せんぱっ…」
目に見えて慌て出す天馬。それを見て倉間は訝しげな顔をするが、「お前らも早く着替えろ」という神童の声で自分のロッカーへと向かったのだった。




「いやーお前もうちょい早く来てたら見してもらえたのになー」

「は?何をだよ」
練習の休憩中、倉間、浜野、速水の三人で固まって水分をとっていると、唐突に浜野がそう言ってきた。彼の話が急に飛ぶのはいつものことなので、二人ともあまり気にしない。

「お守り!天馬のお守りだよ!なんかスゲーキレイだったんだよなー。あれ、なんちゅーののウロコだっけ?」
「はぁ?ウロコ?」
「そーそ。なんでもナントカって沖縄のヘビのウロコだって言ってたぞ?」
「ハブでしょう浜野君。何でもハブ酒のハブの鱗らしいですよ?」
「……ふーん…」

んなモン大事に持ってんのかよ、と良く分からないムカつきが胸にこみ上げてきた。ハブの鱗かよ、そんなモン持っとくんなら俺のにすればいいのに。どうせ同じ蛇だし……って、何考えてんだ俺は!
急に頭を抱えて悶えた挙げ句壁に打ちつけ始めた倉間を見て、二人とも不思議そうな顔をした。




結局休憩時間が終わっても変なムカつきは治まらず、天馬に素っ気ない態度をとったりイライラしながらプレイしたせいで何度か神童に注意された倉間である。
天馬を見ると余計にイライラしてくるので見ないようにしていた結果がこれだ。

「チッ、あーもー面倒臭ぇ!!」

手に持っていた脱いだユニフォームを叩きつける。すると速水が変な声を出して飛び上がった。

「…倉間、お前もう少し静かに着替えられないか?」
「ああ゛?うるせぇよこっちはこっちでイライラしてんだ、泣かすぞ?」

完全に不良である。神童は途端に涙目になり、霧野に慰められている。三年生は最早彼らを生暖かい目で見守るだけだった。
ちなみに一年生は、天馬以外は皆何かしら用があるとかで少し早めに上がっていた(剣城はどうみても兄の見舞いだが)。現在天馬は一人で用具を片付けている。

「じゃ、俺ら帰るからな」
「はい、お疲れ様です」
「倉間お疲れー」
「おー」

三年生や他の二年が帰り、後は倉間と、未だ戻ってこない天馬だけとなった。

「…よし、今の内に……」

確か財布の中っつってたよな、と天馬のロッカーを漁る。自分がどうみても悪い事をしていると分かっても、こうでもしなければイラつきが収まらない倉間であった。

そうこうしている内に彼の財布を探りあて、知らず知らず表情が険しくなる。さて、どこの馬の骨とも分からんヤツの姿(鱗だが)を拝ませてもらおうじゃねぇかと、バッと財布から取り出した例のブツを見やった。
はたして、そこにあったのは。

「……ハブ、か、これ……?」

通常ハブの体は褐色系だ。しかしそこにあった鱗は、青と緑が混ざったような、薄碧い色をしている。
どこかで見た事あるような、と倉間が首を傾げた時、背後の扉が急に開き、天馬が中に入ってきた。

「………あ……」
「…ど、」

うしたんですか、と続けようとした所で、天馬は、倉間の手の中にある物を見つけ、驚いて声を失った。
お互い固まって十数秒。先にリアクションを起こしたのは倉間の方であった。

「……お前、これ……まさか……」

上手く言葉にならないどころか、顔までだんだん赤くなっていく。それにつられ、天馬も真っ赤になった。

「え……と、その……、す、すみませんでしたッ!」

バッと頭を下げる。

「この前先輩がケガをした時に取れちゃった鱗を俺あの後こっそりゴミ箱から回収しちゃってずっと持っていました!」

ワンブレスで早口気味にそうカミングアウトすると、頭を下げたまま倉間のお沙汰を待つ。気持ち悪がられたら、と思うと怖くて顔を上げられない。
はぁ、と吐かれた溜め息に肩が跳ねる。

「……、顔、あげろよ」

静かな声で言われても天馬は「いえ、その、でも…」と言うばかりでますます縮こまった。それにイラっときてつい声を荒げてしまう倉間である。

「いいから上げろ!先輩命令だ!」

その声に天馬は反射的に顔を上げてしまう。そして彼の顔を見、驚いた。嬉しいような、恥ずかしいような、とても複雑そうな表情をしていて、それでも彼の目は、口元は、確かに微笑んでいた。
じっと見つめ、さらに赤くなっていく天馬の様子に今自分がどんな表情をしているのか悟った倉間は、そっぽ向き「お前な、何でこんなモン持ってたんだよ…」と言う。無論、照れ隠しである

「う…ええ、と…、…く、くらまさんの一部だから……持っていたら、いつもくらまさんと一緒にいるような気がして…その……」

ごめんなさい、俺、気持ち悪いですよね、そう言ってうなだれるが、背が天馬より若干低い倉間にはどんな顔をしているのか丸見えである。

「……お前、バカだろ」
「なっ!?バカッ…!?」
「んなモン持ってなくたって……、……俺が、傍にいるだろうが!」
「え……?」
「……〜ッ、あー今のナシ!つかこっち見んな!」
「く、倉間さんっ……!」

感極まったのか、自分より一回り小さい体に抱きつく天馬。抱きつかれた倉間は、「オイ抱きついてくんな!咬むぞ!」等と騒ぐが、やはり嬉しそうである。
「大好きですっ、倉間さんっ!」
「お前はっ……!まったく…」

天馬の告白への返事は、少し伸び上がって触れた唇によって返された。




次の日。
「ところで、先輩はなんで昨日は冷たかったんですか?」
「うっ…それは……」
「?」
「っだあああ、言えるかどこのモンとも知れん鱗に嫉妬してたとか!」
「え……先輩、自分の鱗に嫉妬してたんですか…?」
「なっ…!違っ……」
「えへへー…」
「オイ何ニヤニヤしてんだバカ」
「だって、倉間先輩が嫉妬してくれるなんて…俺って、愛されてんなぁ、って思うと、うれしくて」
「……バカ……」

もはやただのバカップルである。



一方。

「オイ何かあの二人の周りに花が飛び散ってない?」
「そう言えばそうですねぇ…」
「ちゅーか、お花飛んでるどころかお花畑になってね、アレ」
「お花とかいいシュミしてますねー、先輩」
「狩屋、お前な……」
「せ、先輩方に狩屋くんっ!な、何かあの辺から黒いオーラが流れてきてますよっ!?」
「……いつもの事だ、慣れろ、影山」
「……うん、頑張れ。俺はもう慣れた」
「ええっ!?ちょっ、霧野先輩に狩屋くん!?」
周りの部員が悲喜こもごも(?)な目で見つめる中、倉間と天馬は無意識にイチャついていた。勿論桃色のオーラは飛びまくりである。

「……倉間……後でその背、もっと縮めてやる…!(ギリイッ)

「……あの野郎……ロストエンジェルでかっ消す……(ギラリッ)」

若干物騒な思考をする者が約二名いたが、おおむね雷門中サッカー部は今日も平和であった。



最早倉間くんが別人ですがもう気にしないのが私のクォリティー。←
ちゅーか半人半蛇あんまり関係ないような。蛇の鱗がなんのとかはあくまで私のイメージであり、実際には違っているかもしれません。ま、まあそこはフィクションってことで!(逃)


2011/11/08up





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