「おいこら松風、そんな所で何やっているんだ」

兄の見舞いの帰りに河川敷を歩いていた剣城の視界にふと入ってきたのは、ボールを抱えてうずくまる天馬の影であった。
この時間、この場所に彼がいるのは何ら不思議ではない。大方また自主トレでもしていたのだろう。しかし、この時の天馬は、いつもとは少し、雰囲気が違った。少々気になり声をかけた剣城である。

「ふわっ!?……え、つるぎ…?」

案の定驚いてこちらを振り返った天馬の目元は少々赤い。もしや泣いていたのか、と剣城は眉をひそめた。

わわわ、何でここに…と慌てる天馬に近づき、顔を覗き込む。

「…何だお前、泣いていたのか?」

「えっ…いや、違うよ!泣いてなんか…」

「嘘つけ。目ェ真っ赤だぞ」

ウサギみてぇだな、とからかう剣城に天馬は顔を赤くし、「う、うるさい!」と言い返す。そんなやりとりの後ふと会話は途切れ、剣城は天馬の隣に腰を下ろした。
そして、「…話せよ」と促す。

「え、いやあの、別に大した事じゃないんだけどさー…」

「大した事じゃなくてもいいから、話せ」

「もー何でそー剣城ってば命令口調なのかなー…」

ふっと、息を吐く。

「ホントに何でもないんだけど、俺のやってきた事は本当にに正しかったのかな、って思って。俺はただ、本当のサッカーをやりたくて、フィフスセクターの指示になんか従わない!って言って、先輩達も同意してくれてるけど。
でも、最初の頃の、沢山人が辞めちゃった時の事とか、南沢先輩の事とか思い出すと、他の人たちに迷惑かけてばっかりで、ある意味倉間先輩の言った事は当たってるなぁ、って思っちゃって。そしたらなんか泣けてきた」

こんな暗い話しちゃってごめんね。目元を赤くしたまま申し訳なさそうに笑う天馬を見、剣城は深く溜息をついた。そしておもむろに手を上げ、天馬の頭をはっ倒す。

「痛ぁ!?な、何すんのさ剣城!?」

「んな事で悩んでたのかよ。バカみてぇ」

「な、な、バカ……!?」

「そーだ、バカだろ。人は人、お前はお前、誰もお前にはなれないし、お前は誰にもなれはしねぇ。何が良くて何が迷惑かなんて、そいつ自身にしか分からねぇじゃねぇか。
分からねぇ事ぐだぐだ考える位なら、何も考えずに、ただ真っ直ぐに前を向いて駆けていけ。それがお前だろ。結果なんざその後をくっついてくるだけで、それを他人がどう言おうとお前が信じてやった結果なんだったら、胸張って堂々としとけ。人の意見に惑わされてんじゃねぇよ」

「でも…こんなんで、本当にサッカーを取り戻せるのかなあ…」

ぎゅっ、とボールを抱きしめ、天馬は呟く。

「……心配すんな。他の奴が何と言おうと、俺はずっとお前の傍にいてやるよ。…………天馬」

ぽん、と頭を撫でられながら言われた言葉(特に最後の方)に目を丸くし、慌てて顔を上げた。

「っ、え…!?つ、つつつ剣城今…!?」

「あーもううるせえ!ほらさっさと帰んぞ!」

ぐいっと手を引っぱられ、強制的に立たされる。剣城の顔を見ると、夕日のせいにするにはあまりにも耳も顔も赤くなっていて、それにつられる様にして天馬も真っ赤になった。

「う、うん……」

二人とも頬の熱は冷めやまないまま、木枯らし荘へと向かって行ったのだった。



色の穹天下

(見上げた蒼空[そら]には一番星ひとつ)



(あ、見て見てつるぎー!一番星!)
(あーハイハイ分かったから、前見て歩け!転ぶぞ…)
(ぷぎゃ!)
(あーあーほら言わんこっちゃねえ…)



京天は書けなかったので10/8はスルー…していたら、他サイト様が素晴らしい京天を書いておられたので、それに触発されリベンジにと。ゴールキーパー天馬くん!

2011/10/18up




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