あるバレンタインの日




「あっ、トウヤー!ちょうどよかった、今家に行こうと思ってたの!」
「よっ、ベル…って何その大きな包みは」
「やだもー今日バレンタインでしょ!だからお世話になった人達みんなにチョコをくばってこようと思って!」と言い、えへへーと笑うベル。
「へー、でも何かチョコ以外の物も混じっているような…」
「別にチョコと限らなくていいのよ!というわけではい、トウヤにも幸せのおすそわけ!」
「わあっありがとベル!じゃあ俺もお返し!」
「ありがとう!でもどうしてトウヤも作ったの?」
「あーそりゃ料理が下手な姉さんに付き合って…「余計な事は言わんでいい!」
「あっ、トウコちゃん!」
「やほーいベル」
「ちょっ、トウコ姉ギブギブ痛いって」
「余計なコト言おうとするからよ、まったく。で、ハイベル、これチョコね。多分2番目にマシな物」
「わああありがとう!あたしからはこれも!」
「わーっ、可愛いー!流石ベル!こーゆーのホント得意よね!ありがと!」
「ところでトウヤにはあげないの?」
「あげる所か失敗作を問答無用で全て食わされたぞ俺は…!」
「アーラ私の手作りチョコが沢山食べられてむしろありがたい事じゃないの光栄に思いなさいよ」
「誰がありがたがるかッ!こちとら塩入りやら焦げて激マズのやら食わされて散々だったんだぞ!しかも何の副作用だかしらんが鼻血は出るし!今だって出そうなんだバカヤロウ!」
トウヤ、少々涙目である。
「え、えーと、何か大変だったみたいだね、トウヤ?」
「ううっ、こんな姉貴持った俺の苦労を分かってくれるのはお前とチェレンだけだ……っ…」
「何を大袈裟な」
「まあまあ…チェレンといえば、トウコちゃんもうあげた?あたしこれからなんだー」
「あーっ、あたしも!ヤバイ渡さなかったら多分スネるよねアレは」
「いや、トウコ姉じゃあるまいし…」
「そうと決まったら、早速チェレンの家へ出発よーっ!」
「おーっ!」
「え、ええーっ……」


そんな楽しそうな彼らを、木の影から見ている人物がいた。
「……いいなぁ皆楽しそうで…バレンタインか…ボクも貰えるかな?」
しかし、彼の淡い期待に反して、結局何もないまま夕方になった。


「やれやれ……今日はゆっくり休めるかと思ったらとんだ大間違いだったな!」
何しろチェレンに三人で渡しに行ったのはいいが(トウコがチェレンに渡したのは14番目にマシなものだったらしい)、そのままお世話になった人達に渡しに行くわよー!というトウコの鶴の一声でイッシュ巡りに強制的に付き合わされた訳である。そりゃ疲れもするわ。
「まあ楽しかったからいーけど……」
その時、茂みから黒い影が。
「ギャーッ!?」
慌ててボールから相棒を出そうとするが間に合わず、そのままトウヤは黒い影に――――後ろから抱きつかれた。
「うわーっ何だ一体!?ミルホッグの新手の嫌がらせか…!?」
「ヒドイなあ。ボクだよ、トウヤ」
そうNが耳元で言うと、トウヤはビクッと身を竦ませて、「……何だ、お前かよ」と若干安心した様に呟いた。
「あれ、今日は随分と大人しいね。どうしたの?」
いつものトウヤならば騒ぎ、暴れて逃げ出そうとするはずだ。しかし、今は違う。Nの腕に収まったままである。
「まあ何でもいいけど、ボク的には好都合だな。ねえトウヤ。今日、何の日か…分かってる?」
少年を抱きしめる腕に力を込めながら、耳に息を吹きかける様に問う。台詞は甘く、けれど口調は有無を言わさず答えを促す。そしてトウヤは、耳まで真っ赤になりながら。
「だーっ、分かってるから!分かってるからひとまず離れろ!」
「イヤだ。そんな事言って離したら絶対逃げるでしょ。逃がさないよ」
「逃げないよ!」
「信用できないなあ」
「何でそんな信用無いんだよ俺は」
「今までの経験からして…ねえ?」
言葉に詰まった。確かに、Nが抱きついてくる度トウヤは振り払って逃げている。
「…っ、だったらせめて腕の力を緩めろ!」
そして鞄の中から取り出して、肩に乗っているNの鼻先に押しつける。
「……、やるよ…」
渡された(というより押しつけられた)のは、装飾も何もない、箱。
「これ…チョコ、だよね?」
「あ、当たり前だろ!何だよお前、自分で聞いときながら何なのか分かってなかったのか!?」
「え、いやそういうわけじゃなくて、まさか本当に貰えると思ってなかったから……期待はしてたけど」
「……うわお前、そんなだらしない笑顔やめろ、色んな意味で気持ち悪いし恥ずかしいから」
「えへへートウヤの手作りチョコー」
……ダメだもうこの人手遅れです。
「……っあーもう勝手にしろ!俺は帰るぞ!」
振り払ってさっさと帰ろうとするが、何故かふりほどけない。
「あ、あのえーと、N…さん…?」
「トウヤの作ってくれたチョコも嬉しいけど、ボクとしてはやっぱり……トウヤがいいな」
「はいいいいいいっっっっっっ!?」
ギャーやめろ離せー、助けてトウコ姉ー!!等と叫びながらも、トウヤはNに(まんざらでもなさそうに)抱えられて行った。 (おしまい)



オマケ

「でもどうして昼間ボクの所に来てくれなかったんだい?」
「そ、それはっ……」
(言えるか、渡すのが恥ずかしかったからだとか!)
黙りこくっていると、またNが尋ねてきた。
「じゃあ、どうして他の人達にも沢山配っていたのかな?」
「う、ううっ…」
(よ、余計言えない、Nに渡すためだけにチョコ作るのが恥ずかしくてトウコを手伝うって言い訳して沢山作っちゃったとか!そしてその結果ジムリーダーの人達とかに配る事になったとか!あああでも絶対N気づいてるこの顔は間違いなく気づいてる!誰かこの状況から助けてくれ!!)
その後結局トウヤは、Nに本当の事を洗いざらい話すハメになりましたとさ。





おかしい。バレンタイン話なのに、どこかで何かが根本的に間違ってる気がする。何w故www←

2011/02/14完成&up


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