聖なる夜の。1 




シャンシャン。
清らかな鈴の音が、冬の澄んだ夜空に響く。
ソリを、冬の装いのメブキジカ達に引かせながら、茶髪の少年、トウヤはクリスマスプレゼントを配っていた。
この聖なる夜の間でのみ使える魔法で家に入り、眠る子供達の枕元にそっと包みを置くのだ。

「メリー・クリスマス。よい夢を。」
そう言いながらそっと優しく頭を撫で、音も無く外に出る。ソリに乗り込み、「お疲れ。でもあともう少しだから、二匹ともがんばって。」とメブキジカ達を撫でてやると、嬉しそうに鼻を鳴らして元気よく駆け上がった。

そうして大体配り終え、残るはあと一つとなった。
「よし、これで最後だ。頼むぞ二匹とも!」
トウヤが乗るソリはどんどん北上していき、やがて前方に城が見えてきた。それまで、早く戻って暖かい所でずっと寝ていたい等と意識が明後日の方向に飛びかけていた彼は、自分達が向かう目的地を見て唖然とした。
「オイ、あれ、城…かよっ……って、ええ?子供ホントにいるのかこんな城に!?」
しかしメブキジカ達は迷いなく城を目指し突っ走る。どうやら間違いではないらしい。いつものごとく上空から段々と高度を下げながら、とある部屋に向かって夜空を駆ける。
「んじゃ、行ってくるわ」
するっとソリから滑り降りて、窓から入った。床に降り立ったトウヤが見たのは、青い空模様の壁紙が貼ってある大きな部屋。至る所に玩具がある。そして、その隅に、固まって眠るポケモン達と、緑の頭。
――いる。確かに子供がいる。
あちゃー、マジでいるよと驚いたが、とりあえず職務を全うすべく毛玉の群れの近くへ。あと二、三歩で毛玉達に触れられる、というところで、突然緑の頭が持ち上がった。
「……誰?」
「…………!!??」
ま、マズイマズイ見られちゃったー!?
あああこういう場合いったい俺はどうすればいいのですか先輩ー!?とパニクるトウヤを不審げな目つきで見る、小さな子供。
「……まさか、またトモダチを傷つけようとしにきたの?」
そうはさせない、と毛玉達を庇おうとする子供。
「……は?いやいや別に俺はそんなヒドイ事をする人なんかじゃなくて……」
しどろもどろとトウヤは説明してみるが、やはりその子供は彼を睨みつけたままだ。
「あ、いやだから、俺は怪しい人間じゃなくて、ってもうすでに不法侵入してる時点で不審者だけどってあああ違う俺が言いたいのはそんな事じゃなくて!」
混乱しすぎて自分が何を言いたいのかがよく分からない。
「……ん、悪い人間じゃない、みたい……」
その言葉で我に返るトウヤ。その子供は、黒い毛玉(ゾロア)を抱えていた。
「あー…そ、それはどうも……」
ポカンと子供を見ていると、突然ゾロアが子供の腕から脱出し、トウヤの胸に飛び込んできた。
「ぐえっ」と変な声が出た彼に構わず、子供の方に顔を向ける。何か言っているらしいが、衝撃に胸をつまらせた結果咳きこんでいるトウヤには気づかなかった。
「ゲホッ、何すんだお前…ってわあっ!?」
今度は子供が飛びついてきた。一人と一匹の重さに耐え切れず、遂に彼は尻餅をついてしまった。
「なっ、お前…?」
「……あったかい」
ポツリ、と呟かれた言葉に、引き剥がそうとした手を止めてしまう。
「……ここに、いてくれる?」
縋るような声。そんな言葉を発するこの子供は、すごく寂しそうで。
「俺…は……」
その時、メブキジカ達が急かすように鳴き始め、帰らなければならない時間が来たことに気づいた。
「……っ、ごめん……な…」
最後に残った包みを渡し、逃げ出すようにメブキジカ達が待っている所まで戻る。さっき、自分は何を言おうとした?

どうにも、サンタの自分を見た、城に住むあの子供が気になって仕方がないトウヤだった。



(何か色々ありすぎて疲れた…)




サンタトウヤ君とちみっこNさんの邂逅。まだまだ続きます。






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