親愛 | ナノ





動き出す者

理央が私の家に泊まりに来てから一週たった。
そう、理央は私の家に居候している。
一方に帰る気配がないので何も言わないでおいた。



理央がいない今のうちに病院に行って薬を貰ってこないとな。
私は身支度を済ませて家を出た。
歩いて駅まで行ってそこから東京までの電車に乗った。
東京に着いてから今度はバスに乗って病院まで行った。



『ハア、やっと着いた!今更だけど長い道のりだった』
病院の中に入って診察券を出して呼ばれるまで待ってた。
今日は平日だけあって人が少なかった。
つか、まだ午前中だからかもしれないけどね。


10分位待ってたら名前が呼ばれたので受付で指定された診断室に向かった。
診断室にはいつもの先生がいた。

『久しぶりです。先生』
私は挨拶をしてイスに座った。



「久しぶりだな。嬢ちゃん」
鼻にツンっと煙草の臭いがした。
机の上には吸い終わった煙草の吸いがらが何本かあった。
年齢不詳の顔立ちに銀髪のこの男はクソ親父と一緒の年代だったはずだ。



『煙草いいんですか?ここ病院ですよ』


「いいの、ここ俺の部屋だから」
いいのってそれでも普通はダメだろ。
つか、よくクビにならないな。
『はいはい。分かりましたから、この前の診断結果教えてくださいよ。もう、出てるんでしょ!』



「言ってもいいが、覚悟しといた方がいいぞ」
覚悟ってなんだろう?やっぱ私死ぬの。





『はい、分かりました』
私の表情を見て察したのか先生は机の上にあった茶色の封筒を私に差し出した。
その中身をみて私は驚愕した。
その内容は私が予想していたものよりも遥かに上回っていた。



「っで、それを見た感想は?」


『正直に言うと私怖いです。自分に残された時間があと少しだけって考えると』
私の心にあるのは恐怖だけだ。
あと、残り少ない時間をどう過ごせばいいんだ。
お祖父様との約束を果たすかそれとも違うことをするか……、どっちにしろ時間がないはずだ。

「おっ、君が弱気になるなんて珍しいね」珍しいものを見るような瞳で見ているこの男を今すぐ殴りたい。



『うっ、煩いなこっちは真剣なんだからっ!!』
灰皿で思いっきり殴ってやろうと思って灰皿を掴んだら腕を捕まれて止められた。



「ちょ、嬢ちゃんさ今その灰皿で俺の事殴ろうとしたよね?ガラス製の灰皿って殴られると痛いんだよね」
一回この灰皿で殴られた事があるかのような物言いだった。
現にそうかもしれない。
だってこの灰皿少し欠けてる。



『そうですけど。それがどうかしました?』
ニッと怪しい笑みをしてみた。


「嬢ちゃん悪魔かなんかでしょ絶対!」
悪魔かなんかってちょっとひどくないか。

『まあ、いいや。また暇なとき来るね!』
私は渡された茶色の封筒を持って病室から出て神奈川に帰った。公園のブランコがキィーキィーっといいなから動いている音や雨がポツポツ降る音が耳に響い
ていた。


空は灰色の雲で覆われていて薄暗かった。
頬を伝う涙はゆっくりと流れて地面に落ち雨と交わった。


誰かの足音がした。
その足音は私の前まで来ると止まった。


「璃琥お姉ちゃんだよね?」
私はその声で我に帰った。
幸村と同じ容姿で幸村より少し長い髪。
幸村と同じ色の瞳で私の事を真っ直ぐ見つめる。

『市瑠…』
顔を上げて市瑠の事を見た。


「泣いてたの?それにこんなに雨で濡れちゃってる」
市瑠は私を傘に入れてカバンから出したタオルで拭いたら。


『私死ぬんだってさ。これ見てごらんよ』
市瑠に検査の結果が入っている封筒を差し出した。
市瑠がその中身を見て
「お姉ちゃんなら大丈夫だよ」
と言って頭を撫でてくれた。
これだとどっちが歳上だか分からない。
でも、こうされるとなんか安心できる。
きっと、人の暖かさにぬくもりを感じるからだ。


『そっか、ちょっと安心できたよ』

「ならよかった。今からお兄ちゃんのお見舞いに行くんだけど来る?」
幸村の所にはあまり行きたくなかった。
だけど今は一人では居たくないので着いていくことにした。


『行く……』

「ふーん、璃玖お姉ちゃんいつ入れ変わったの?」
こいつはさっしがいいのか璃琥と俺が入れ変わってるのが分かってたみたいだ。

●●●●●

「お兄ちゃん久しぶりにお見舞いに来たよ」
市瑠がドアを開けて幸村に声をかけた。
中を見たら真田と蓮二と雅治がいた。
雅治がいたのには少し驚いた。幸村の見舞いとかめんどくさそうだから行かないと思ってたし。


『雅治』
俺は雅治の近くに寄って彼に抱きついた。

「どうしたんじゃ、今日は妙に馴れ馴れしいのぅ」
雅治は俺の頭を優しく撫でた。


『今日はそういう気分なんだ。雅治、後で俺の話聞いてくれるか?』
雅治にしか聞こえないように小さい声で囁いた。
雅治は了承したという意味を込めて頭を撫でた。



「璃玖!貴様ここ暫く学校に来ていないらしいな。お前は生徒会長だろう。それになんだこのゲームのパッケージの表示は!!」
俺は一瞬固まってここは璃琥に任せようと思って精神の奥から無理矢理璃琥を引っ張った。

『グッ……ッ!!』
頭にスゴい頭痛がした璃玖に無理矢理引っ張られて表に出てきた。
今の状況がヤバいと判断した璃玖は逃げた。
さっき璃玖の名前を呼んだってことは私達の事覚えているんだ。


『ちっ、真田虫め』
鋭い視線で弦一郎のことを睨んだ。


「なっ、なんだその態度は!貴様やる気か!」
弦一郎がどこからか出した日本刀を私に向けた。

ふーん、弦一郎の奴私に敵いっこないのにやる気なんだな!
ならば私も!
隠し持っといた小太刀を出して弦一郎に向けた。


「ちょっ、ストップ!!あんたら何やってんの!?」
理央が入ってきてビックリした顔で私と弦一郎をみた。

『見て分かんないの?今から弦一郎の事始末するの』


「へー、そうなんだってちょっと待ったぁぁ!!」


『遅いわよ』
理央が止める前に私が動いて小太刀を振りかざした。


真田に向けて振りかざした小太刀は真田が持っていた刀に跳ね返された。

「璃琥それ以上やる気なら暫く会議中のおやつタイムはなしにするぞ!」
これ以上私と真田を争わせないように蓮二が私を脅た。

おやつがない会議なんて面白くないむしろ苛々する。


『……分かったよ。蓮二』
ここでこう言っとかないと後が怖い。
蓮二の事だからおやつだけでなく仕事の量も増やしかねない。


「わかったならいいんだ」


「随分と物分かりがいいみたいだな。それに今のお前の刀には迷いが見えたぞ」
迷いって何に対しての迷いなの。分からない自分が分からなくなる。
私が考え込もうとしたらケータイが鳴った。

病院でケータイを使うのは気が引けるが一応電話に出てみた。
電話はマネージャーからで仕事の事で話があるらしい。


『ごめん、急に仕事が入ったから行くね。直ぐに帰ってくるからこれ買ってきてねマサ。それと市瑠は後で迎えに行くから幸村にOK貰ってね』
私はマサに買うものがメモしてある紙を渡して行こうとしたがマサに腕を捕まれた。


『どうしたの?』


「本当に帰ってくるのか?仕事ってアレじゃなか?」


「璃琥っ!
!あの仕事は辞めたんじゃなかったのか?」


『ごめん、蓮二嘘ついてた。あの仕事は辞めてないよ。でも、安心して今回は表の仕事だから。じゃあ、行ってくるね』
理央の頭をクシャクシャと撫でて私は病院から出た。


東京にある事務所に着いて9階にあるスタッフルームに行った。

「璃琥ちゃん〜!」
ギュッて誰かに抱き着かれた。
こんなことをするのはさゆりんしかいないと思うんだよね。

『こんばんは』
私はマネージャーとかに挨拶をした。
マネージャーの隣に見慣れない女の子がいた。


『ね、さゆりんあの子だれ?』


「む、胸がまた大きくなってる!!えっ、何か言ったかい?」
さゆりんは私の胸を凝視して私の声が届いてないみたいだ。
つか、この子日に日に変態になってる!!


『マネージャーその子は誰ですか?』

「ああ、この子は次の新しいアイドルグループに使う子だよ。ちなみに君と沙由利ちゃんもだよ」
ハア"ァ!?私もかよ!
つか、無理無理絶対無理だ!


「無理ではないのだ!諦めたらそこで終わりじゃないか!あーやちゃんもそう思うよね?」

「別にいいんじゃない。私としてはライバルが減ってくれて好都合だよ」
なんなのこの挑戦的な目。それにピンクの髪に甘ったるい匂い。こんなやつとユニット組んでアイドルグループをやるなら一人でやった方が絶対いいでしょ !


「あはは、そんな
こと言わないで仲良くしようよ!璃琥ちゃんはどうなの?」

『絶妙やだ!そんな子と何てやりたくない』
性格的に絶妙相性合わないでしょ!
「ううん、困ったな。もう決まったことだから変えられないんだよね。それにユニットを組むのはお互いにとっていい刺激になるはずだよ」
いやいやいや、私の本職はモデルなんだけど!
アイドルとか無理!


理央Side

璃琥が出って少したったら仁王が璃琥に頼まれた買い物を済ますために出ていった。それに便乗してかあまり長く居ては幸村の体に障るということで皆帰っていった。
私は幸村に話があるので残ることにした。


つか、市瑠ちゃん璃琥の家に泊まるのか。この子幸村と一緒でちょっと腹黒だからな。

「ねえ、幸村。仁王に嫉妬した?」
幸村のベットに座って彼にしか聞こえない程度の声で囁いた。

「…それは、君もなんじゃない?」


「俺が?何でよ?そんな事あるわけないねん」
ああ、口調がぐちゃぐちゃになっちゃた。
それだけ幸村の今の一言に動揺してしまったんだ。
私は出来るだけ動揺したのを見抜かれないようにした。


「動揺してるってことはそうなんだね?」
こいつに悟られるとは俺もまだまだだな。


「そうかもね、あいつどうやって璃琥と付き合う事になったんだろう」
璃琥は絶対彼氏とか作らないはずだなのになんで?
仁王が脅したのかな。

「仁王の事だから璃琥に何かしたんじゃない?」
コート上の詐欺師って言われてるくらいだから絶対何かある筈だ




「それも、そうかもね」
俺も行動を開始しよう。結果が無惨な事になってでもやりたいことが私にはあるんだから!お姉ちゃんの好きにはさせないよ。


2011年1月17日

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