真実のシェイクスピア

02幻想ばかりの住んだ町

「名前、仕事ダ」

「え、もう?容赦ないなぁ」


甘露寺との食事を終え、直ぐに鴉から司令が入った。どうやら自分が留守にしていた間の仕事が、溜まりに溜まっているらしい。
それもそうか。ただでさえ自分の管轄地区を7日間も留守にしていたのだ。留守の間は、地区が近い宇髄か冨岡が見ていたと聞く。
宇髄は兎も角、冨岡には今度出会ったらお礼を言わなくては。


「頑張ってね!名前ちゃん」

「ありがとう。蜜璃ちゃん、今日は休み?」

「そうなの、だから朝からパンケーキ張り切っちゃった!」

「本当にありがとうね、気をつけて帰ってね」

「お掃除しておくわっ」

「あはは…」


張り切っている甘露寺を背に、刀掛けに置いてあった日輪刀を腰に差し直す。
そしてかけてあった羽織に袖を通し、中庭へ移動した。普段はもちろん玄関から出ていくが、今日は甘露寺が家で留守をしてくれるらしく、管轄地区まで少し近くなる中庭から出立する。


「行ってらっしゃい!」

「行ってきます」


名前は甘露寺に向かって出立の挨拶をすると、まるで花吹雪のように華麗に去っていった。見慣れた甘露寺でも、その姿に目を囚われてしまう。


「いつ見ても名前ちゃんの去る姿は、素敵だわ!」


名前が去った後の余韻に、胸を高鳴らせている甘露寺であった。


……………………………………………


「で?どういう内容なの?」

「西ノ町二花問屋ガアル。ソコノ花ヲ買ウト、数日ニハ買ッタ本人ガ失踪スルラシイ」

「花を買うと失踪…変なの」

「花二血鬼術ガ、カカッテイル気ガスル」

「私もそう思う。あ、ここの問屋?」


名前が来た町は、比較的周りの町よりも暖かい気候の場所に存在していた。
ここは花が育てやすい環境である為、花問屋が盛んである。名前も何度か足を運んだ事があるが、鬼の気配など今までは感じた事がなかった。恐らく、ここ最近留守をしていた時に目を付けられたのだろう。この町に来るのは1ヶ月ぶりだった。

とりあえず問題の問屋を通り過ぎ、他の花問屋に話を聞いてみる事にした。
付近の問屋は名前の顔見知りが多い。


「花村さん、こんにちは」

「あらー名前ちゃんじゃない!最近、見なかったから心配してたわ」

「ご心配おかけして申し訳ございません…。今日はちょっと、あちらの問屋について聞きたいことがありまして」

「あー、鉢屋さんのところねー。ちょっと聞いてよー…」


顔見知りの花問屋、「花村庭園」の店主『花村 文恵』に声をかけた。花村はこの町で一番の情報持ちである。見た目はふくよかな体型で、派手なワンピースが特徴だ。年齢は聞いた事無いが、おそらく30代後半だろう。

問題の花問屋の話を振ると、彼女はひっきりなしに喋り倒した。
花村が言うには、1ヶ月前に新しく出来た店で従業員は『鉢屋』という女性ただ一人のようだ。たまに男性が手伝いをしているみたいだが、その男性は毎回顔色が悪く、無愛想で何も話さないらしい。
『鉢屋』という女性も顔色が青白く良いとは言えないが、男性よりは愛想があり話す事は出来るみたいだ。
ただ、『鉢屋』を昼間には見ないらしい。昼間は基本店を閉めており、夜の数時間だけ営業する形態なようだ。

それだけ聞くと恐ろしく思うが、そこで売る花は何処よりも美しく目を引く。夜の数時間の営業でも、客の足は耐えない。


花村のおかげで大体は店の事や、店主の事が分かった。さすが、町一番の情報持ちだ。
名前は花村にお礼を言い、問屋が開店するまで、近くの藤の花の家紋を挙げている屋敷に世話になろうとその場を後にした。

そんな彼女の後ろ姿を見つめる怪しい視線に、名前自身はまだ…気付いてはいない。


幻想ばかりの住んだ町
(あそこの屋敷の花風呂に入りたいなぁ)
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