真実のシェイクスピア

13久しい朝に君が足りない

「本日ノ柱合会議ノ前二、柱合裁判ヲ行ウ!!」

「裁判?誰が何を犯したの」


朝餉を終え、煉獄兄弟と邸を出る時であった。名前の鴉から、『裁判』と言う言葉が放たれた。
柱で裁判を行うという事は、誰かが隊律違反を犯し、粛清の対象になる可能性があるという事である。
昨日の任務といい、続けて嫌な事が起こるとは今から産屋敷の邸に行くのが億劫だ。


「癸ノ隊士ガ鬼ヲ連レテ任務二行ッテイタトノ事ダ。蟲柱ガ鬼ヲ斬ル時二、鬼ヲ庇ッタ」

「鬼を連れて庇った?どんな血鬼術をかけられたの…。まぁでも立派な隊律違反」

「「斬首だね(な!)」」


きっと鬼を連れて、庇った子は何か理由があるのかもしれない。
けれども、自分の感情だけでその子の違反を許す訳にはいかないのも事実だ。自分は『鬼殺隊』という何百人の隊士達のトップにいる。見せしめは必要だろう。

だからといって、『斬首』という言葉が彼と被るのは嬉しくない。何も考えずに『斬首』と言ったであろう杏寿郎は、本当に昔から容赦しない。今だって表情は全く変えず腕を組み、鴉の話をニコニコと聞いている。
『深刻』と言う言葉は彼にはないのか。


「裁判の必要など無い!」

「分かった分かった…!とりあえず千寿郎くんを送って、早く邸に向かおう」

「そうだな!」

「……」

最終選別から戻ってきた彼女に告げた、産屋敷の話をふと思い出した。
まさか…粛清対象が『彼』ではないだろうか。いや、産屋敷が把握しているのだから、わざわざ裁判を『彼』の為に開くわけが無いよな。

少し考え過ぎか。
鬼を連れるなんて、『彼』以外に物好きもいるもんだ。

先を行く煉獄兄弟達を追いかけるように、名前は走り出した。


……………………………………………



「おい、何故お前が名前と一緒にいるのだ」

「伊黒さん…」

「はぁ?何で煉獄が名前の隣に居たんだよ」

「天元さん…」

「名前…名前?あれ…何で名前はここに居ないの」

「無一郎くん…」

「テメェら落ち着けェ…。ここは俺が話を聞いてやる。煉獄…そこに座れ」

「実弥さん…」

「ハハッ!実に想像していた通りの反応だな!!皆、変わらずで何よりだ!」

ハハハと煉獄の高笑いが庭園に響く。
そんな煉獄を見ている殿方達は今にでも彼へ飛びかかりそうだ。

…何故こうなる?
千寿郎を邸まで見送ったまでは良かった。
その後からだ、様子がおかしかったのは。

千寿郎を邸まで見送った後、煉獄は意味深な発言を名前にしていた。


『名前と一緒に行ったら囲まれるな!よもやよもやだ!』

『囲まれる?どういうこと』

『見てれば分かるぞ!邸についたら名前は俺から離れるといい!』


『囲まれる』だの『離れる』だの意味が分からなかったが、たった今その理由が分かった気がした。確かに彼は、奴らから『囲まれている』
その光景を、杏寿郎の一歩後ろから眺めていた。今日も平和なんだなきっと。

そんな殺気立った空間に躊躇せず、名前に声を掛けてきた一人の隊士がいた。


「名前ちゃん、久しぶり!今日も可愛いわ!」

「蜜璃ちゃん!1ヶ月ぶりだからそこまで久しぶりじゃないよ」


恋柱の甘露寺であった。
彼女とは長期任務前に会ったのが最後だった。柱同士なかなか顔合わせる事は少ないのだが、甘露寺とは暇さえあれば会っている気がする。


「1ヶ月も会えなかったのよ!寂しかった〜…。あっちの軍団は相変わらずなのね!」

「相変わらず…っていうか意味がわからないというか」

「名前ちゃんも罪な乙女ね!」

「いや…。なんか最近こういうのが目に良く入るというか…なんというか」

「えっ、やっと気づいたの?」

「“やっと”!?」

「そうよ〜、みんな結構分かりやすかったと思うけど…」

「蜜璃ちゃん…私…婚期なのかな」

「え!?名前ちゃん結婚するの!?」

「「「「結婚!?」」」」

「み、蜜璃ちゃん…声が…大きいよ」

「はっ…!ご、ごめんね!」


産屋敷の邸というのに、男5人は固まってまだ話を続けている。
とは言うもの、実際に結婚の話が出ているのは冨岡と煉獄だけ。
だが、煉獄と言い合っている、宇髄・不死川・伊黒の他の男性陣は一体何なのだろうか。

まさか…彼らも?

(いや、まさかまさか)

やめよう、考えただけで頭が痛くなる。
こんな女相手に皆が群がるのは良くない。性格は置いといて、顔は良いのだから町娘など美人と縁談の話をするべきだ。何なら自分がお見合いを計画してもいいくらいなのだが。

まぁ、あぁやって言い合っている最後には冨岡義勇という最終兵器がねじ込まれ、空気の読まない一言で片付けてしまうのがオチである。
そろそろ出てきても良い頃なのだが、今日はその冨岡の姿が見当たらない。
何か御館様にでも呼ばれているのだろうか。


「蜜璃ちゃん、義勇さんは?」

「と、冨岡さん!?あれ…名前ちゃん聞いてない?」

「聞くも何も…」


今回の裁判は『癸の隊士』が対象としか聞いておらず、冨岡の話題は一切出てきてはいない。
そんな事を甘露寺に伝えると、彼女は目線を離し、言いづらそうに口を開いた。


「しのぶちゃんから聞いたんだけど…冨岡さんも裁判の対象みたいなの」


その瞬間、名前は笑顔を失った。


久しい朝に君が足りない
(何かの間違いだよ…ね?)
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