真実のシェイクスピア
12三人寄れども馬鹿なら意味なし
煉獄家の次男にぶっ飛んだ発言をされて、10分ほど経過した時だった。
例の煉獄家の長男が、名前の家へ戻ってきたのだ。
『おかえりなさい兄上!』と弟は笑顔で兄を迎え入れたが、その光景に少しだけ違和感を持った名前。
「いや、なんか君達の家みたいになってない?」
ここは名前の邸である。
『おかえりなさい』と笑顔で出迎える千寿郎は、自分の邸のような雰囲気を出していた。これではまるで、自分と子供が旦那の帰りを待っていて、帰ってきた旦那に子供が笑顔で出迎える光景ではないか。
嘘だと分かってはいても、千寿郎の“あの”言葉は名前を混乱させるには十分であった。そんな事は知らずに、長男はいつもの様に大声で話す。
「戻ったぞ!名前!」
「お…おかえりなさい」
「うむ!昨日はよく寝れたか?」
「お…お陰様で」
「そうかそうか!よし、千寿郎!朝餉にしよう!」
やはり、どこからどう聞いても夫婦と子供の会話だ。
どんどん千寿郎の戦略にハマっている気がするのだが。
「はぁ…」
笑っている千寿郎が、小悪魔に見えてきた名前であった。
……………………………………………
そんな小悪魔と杏寿郎について行き、朝餉の時間を迎えた名前。
最近は宇髄家に行っていないせいか、誰かの作るご飯は久しぶりで身体に染み渡った。
千寿郎の作る食事も、宇髄の嫁が作る食事もどちらも好きである。
『うまいうまい』と叫んでいる杏寿郎はさておき、千寿郎が何か言いたそうにしているのが目に付いた。
名前は、もじもじとしている千寿郎に声をかける。
「どうしたの?」
「いや、あの、兄上にちょっと」
「うまいうまい!!!」
「もしもし、杏寿郎?弟から話があるって」
「うまいうまい!!ん?そうか!なんだ!言ってみろ!」
「先程、名前さんに兄上と結婚して欲しいと言ったのですが…」
「ブホッ!!」
思わず食べていた白米を吹き出す。ご飯が美味しくてすっかり忘れていた。小悪魔の願いを。
せめて自分だけに留めて欲しかったと名前は慌てる。
「ちょっと…」
「そうか!千寿郎は名前がいいのか!」
「はい。名前さんが姉上になったらいいなと思います」
「それは俺も同感だ!よし、名前を嫁にしよう!!」
「まてまて兄弟!!」
「え?」
「む?」
何故普通に話を進めているんだ。
杏寿郎に至っては、判断が早すぎる。本当にそれでいいのか?
本人の許可もなく、『嫁にしよう』決定発言は何処ぞの天然ドジっ子さんよりも酷い。
婚期なのか…自分。
同時期に結婚を申し込まれるのは、自分の婚期が今だと教えてくれているのか?
天然ドジっ子冨岡義勇に投げかけた言葉を、彼にも言ってみる。
「いいですか?結婚するにはお互いが『好き』ではないといけないと思うんですが!」
「問題ないぞ!」
「?????」
「いつでも嫁に来るといい!俺は名前が嫁になりたいと言うなら受け入れよう!」
「はい?」
「名前は俺を好きになって、旦那に選べばいいと思うぞ!昔からお前のことは好いている!」
「は!?」
お前の隣だと安心して寝れるしな。と付け足す杏寿郎。
今までの話を再度思い出し、名前はぶわぁっと頬を真っ赤に染め上げた。
昔から強引な所はあったが、ここまで強引とは…。もう脱帽だ。
これはもう本当に婚期なのかもしれないと、名前は心の底で思う。
「か、考えさせていただきます」
ため息の後に口にほおりこんだ、千寿郎作の卵焼きが更に甘く感じたのだった。
三人寄れども馬鹿なら意味なし
(俺は本当に名前が嫁だったら幸せだと思ったんだ)