真実のシェイクスピア

08よいこの感情論

不死川説教後の長期任務から無事に帰り、ひと月程が経ったある日。
最終選別の時に顔見知りになった、隠の後藤と偶然出会った。

他愛ない話をした後、彼は深刻そうな表情を浮かべ名前に本題を話し始めた後藤。


「那田蜘蛛山ってご存知ですか?」

「那田蜘蛛山…?ごめんなさい、分からないです」

「実は…」


ここ最近、那田蜘蛛山という場所での鬼狩りを命令されるらしいが、そこに行った隊士が誰も帰って来ないそうだ。
もしかしたら十二鬼月がいるかもしれないと、後藤は言った。


「癸の階級の隊士が三人行くらしいですが、大丈夫かどうか…」

「え?癸以上の階級の隊士が行って、帰って来ないんですよね?それは…まずいのでは」

「俺も思います」


どんな意向で癸の隊士を行かせるのだろう。誰でもいいから鬼を斬れという事か?
だから近くにいる癸の隊士を行かせる…?
そんなの命の無駄過ぎて、聞いて呆れる。


「花柱様の担当地区が那田蜘蛛山は対象でないので、行くことは無いと思いますが…」

「…対象外か」


お館様の命令が無い限り、他の柱の担当地区には入れない。面倒な隊律である。

肩を落とした名前の元に、彼女の鎹鴉が飛んできた。バサバサと激しく音を立てて、名前の肩へと着地する。


「水柱ト蟲柱ガ那田蜘蛛山二向カッタ」

「柱が二人も?やっぱり十二鬼月…」

「鬼ガ群レトナッテ住ンデイル。大勢ノ隊士ガ犠牲二ナッタ。後藤、オマエモ任務ダ」

「やっぱりな…。それでは花柱様、俺はここで」

「はい。皆さんをよろしく頼みます。どうか、お気を付けて」


後藤を見送る最中も、不安で胸がモヤモヤとしていた。
…癸の隊士達は大丈夫だろうか。
まだまだこれからの若い芽を、こんなにも早く摘まないで欲しい。
隊律違反と分かってはいても、ここは行くべきなのでは…?


「名前、行ッタラ…オ館様二絶対イウカラナ」

「…わ、分かってます」


鴉に心を読まれたようで悔しい。
名前の鎹鴉は変な所で勘が鋭く、彼女が何かやらかす前によく止める。他人から見れば優秀な鴉だが、名前にとってはもう少し甘く見てくれても良いじゃないかと思うばかりであった。


「明日ハ柱合会議ダロウ。早ク邸二帰ッテ寝ロ」

「…はいはい、帰りますよーっと。お腹すいたなぁ」

「あれ?名前さん!」


鴉に羽織を引っ張られながら、帰路についた時であった。
ふと後ろから名前を呼ぶ声がしたのだ。
後ろを振り向き確認をすると、そこには見覚えのある彼がいた。
兄と瓜一つな見た目をした少年。唯一見た目が違うと言えば、特徴的な眉毛だろう。


「こんばんは、千寿郎くん」

「お久しぶりです、名前さん。夜に女性1人では危ないですよ」

「…心配してくれて嬉しい…。千寿郎くんも危ないよ?」

「藤の花の香を持っているので大丈夫です。家も近いですし」


彼は、名前と同じ柱の煉獄杏寿郎の弟、千寿郎である。
明朗快活過ぎるほどの兄より大人しく、家事全般はお手の物。少し控えめな性格ではあるが心優しい少年だ。


「こんな時間にお出かけ?」

「はい、食事を作り過ぎてしまったので知人におすそ分けしてきたんです」

「じゃあ帰ったら何もやる事ない?」

「?はい、ほぼ全部終わらせてきたので…あとは僕が食事を取るだけですが」


名前は千寿郎に向かって微笑みかけると、彼の手を取り歩き出した。


「ちょ、名前さん!?」

「千寿郎くん、ちょっと付き合って」

「ど、どこにですかっ」

「私のご飯」

「え!?」


急に手を握られた彼は困惑する一方である。
そんな慌てている千寿郎を可愛いと思う名前であった。

誰かと一緒にご飯を食べたい。
たまにはそう思う日もあるでしょ?


よいこの感情論
(助けに行けない自分がもどかしい!!こうなったらヤケ食いするべし!!)
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