真実のシェイクスピア

07おしえて自由というものを

「な、私の血鬼術を破ったの…!?」


彼女が放った呼吸は、自身を固定していたもの全てを連撃で飛ばした。
小刀で呼吸を使ったからか、威力は最小限に抑えられている。

鬼の瞳を再度確認すると『壱』という文字が刻まれていた。
下弦の攻撃を受けてしまうとは不甲斐ない。


「名前。何故かお前の攻撃が俺に飛んできたのだが」

「あれ、ゴメンナサイ」

「…片付けるぞ」


冨岡は自分の羽織を名前に渡し、刀を構え直した。着物が破れていたのに冨岡は気が付き、羽織を渡したのだろう。
その行動に少しだけ胸を高鳴らせた名前は、遠慮なく冨岡の羽織に袖を通した。
普段見るだけの半々羽織を自分が身に付けていると思うと、不思議な気持ちになる。

こういう所で冨岡は優しい。


「さぁ、行きますよ」


名前も腰に差していた日輪刀を抜き、刀を構える。
息を合わせ、一斉に鉢屋へと斬りかかった。


「ぐぁぁぁぁぁ」


花と水が綺麗に合わさって、それは幻想的な風景だったと通りすがりの旅人は言った。



……………………………………………



「お疲れ様です、義勇さん。帰りましょう」

「あぁ」


無事、下弦の壱を倒した名前達は藤の花の家紋がある屋敷へ戻っていた。
もう日が登り始めている。今から戻れば昼前には自分の邸へ着きそうだ。

荷物をまとめ、世話になった女将に挨拶をし、屋敷を後にした。


「名前、邸へ戻リ次第次ノ任務ダ」

「えぇ…眠たいのに…」

「次ハ長期二ナルゾ」

「長期!?勘弁してよ!!」


名前の鴉が悪魔の呟きをする。
久しぶりの任務で終わった直後に、長期任務を入れてくる辺り本当に馬鹿だ。
冨岡に助けを求めたが、「俺は知らない」と一言。
その対応に名前は頬をふくらませたが、仕事だから仕方ないと現実を受け入れた。


「義勇さん、今回はありがとうございました」

「別に例を言われることはしていない」

「色々と私が助かったんです。素直に言葉を受け取ってください」

「……」


黙り込んでいる冨岡を横に、足速に帰り道を進む。今回は、任務よりも冨岡の寝起きの悪さを痛感させられたものだった。接吻されそうにはなるし、夫婦発言もするし、挙句の果てには「好きだ」と言われ心臓が足りない。
思い出しただけで顔が熱を持つのは、止めて欲しいものだ。

そんな任務中を思い出すのに気を取られていたのか、気が付けば自分の邸の近くを歩いていた。太陽も高く上がり、昼前だということが分かる。
黙って歩いていた冨岡が自分を送ってくれているのだと分かると、何故か冨岡が眩しく見えた。

自分の邸は反対方向なのに。
本当に優しい人。


「では、義勇さん、お身体にお気を付けて。もうすぐ柱合会議の時期ですし、また近いうちに会えますね」

「そうだな」

「それでは…」


冨岡に別れの挨拶を済ませ、振り返り一歩を踏み出した瞬間、不意に右手首を掴まれた。
急に掴まれたせいで体勢を崩し、冨岡の胸板へ顔が付いた。
相手の心臓の音が大きく聴こえる。


「ちょ、え、義勇さん?」

「…少しだけ」

「なっ…」

「いやいやいや!む、むり…「おい、テメェ…」」


聞き覚えのある声が耳に響き、それと同時に隊服の襟元を掴まれたまたもや後ろに引っ張られる。


「冨岡ァ…昼間っから女に手ェ出すんじゃねぇよ…」


背中に汗が蔦う。
顔を見なくても分かるこの声は…


「さ、実弥さん…」

「テメェも簡単に男に抱かれんな!!!馬鹿か!!!」

「ひぃぃ…」

「この間説教した…ってオイ、冨岡ァ…逃げんじゃねぇぞォ…」

「……!!」

「2人してそこに座れェ…根性叩き直してやる」



言い訳くらいさせてくれ。
その後1時間の不死川説教が二人を待ち構えていた。



おしえて自由というものを
(これから長期任務なのに!!義勇さんも実弥さんも嫌いだ!!)
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