生まれて初めて欲しい物が出来た。
手に入れたからには俺が独り占めするからね。


時透一郎の場合
※20歳の時透くん


「名前、手伝うよ」

「ありがとうー!」


雲一つない晴天。今日は洗濯日和だ。
一昨日からずっと天気が悪かったため、3日ぶりの洗濯である。シーツやら服やらで洗濯所はごった返していた。
時透と一緒に洗濯をすれば、いつもの2倍の速さで終わってしまう。彼が屋敷にいてくれると本当に助かるのだが、柱は忙しい。せっかくの休みを使ってしまっているようで、少しだけ申し訳ない気持ちになっていた。


「あれ…?名前、なんか顔が真っ青だよ」


時透の言葉にドキリとする。実は朝から体調が優れなかった。だが、せっかくの洗濯日和なのにやらないわけにはいかない。今日を逃すと暫く晴れ間は無いらしいので、少し無理をしてまでもやりたかった。


「結構酷いよ。なにか心当たりとか無いの?」

「…ない」

「医者に見てもらおう、心配だから」


残りの家事を時透がやってくれ、その後直ぐに病院へと向かった。蝶屋敷よりも街の医者の方が邸からは近い。診療室に足を踏み入れた途端、吐き気が強くなり名前は倒れ込んでしまった。先程まで元気に話していたのに、これはおかしいと時透は焦る。
何かの病気なのでは…と不安が募っていた。


「先生、どうしよう。名前は大丈夫なの?ねぇ」

「安心しなさい、大丈夫だ」


宥めるようにそっと時透の肩を叩く。
診察室から出るように指示をされ、時透は外にある椅子へと腰をかけた。
名前と出会って6年になるが、こんな事は初めてだった。また彼女の元気な笑顔が見たいと、診察室の扉を見つめる。何も出来ない自分に腹が立った。

しばらくして時透の前に看護婦が現れ、名前がいる病室へ連れて行かれた。静かに扉を開けてみると、名前はベットに座り外を眺めていた。
あぁ良かった、彼女は無事だ。


「名前…!」

「むいくん、ごめんね心配かけて」

「俺は大丈夫だから。名前は?ねぇ」

「だいぶ楽になったよ」


彼女の言葉にホッと胸を撫で下ろす。
先程までの真っ青な顔色は、今の彼女にもうない。健康そうな顔色である。


「診察したんでしょ?なんだったの?」

「ふふ…あのね、むいくん」


名前は時透の長い髪を撫で、指に絡めとる仕草をした。それをじっと見つめる彼。


「むいくんと私ね、お父さんとお母さんになるんだ」

「…え?」

「新しい家族が増えるってこと…だよ」


恥ずかしそうに微笑む名前。そんな彼女を見て、時透は髪を触っていた手を掴んだ。
手からお互いの熱が伝わる。名前の手は熱くて、その熱で自分が溶けてしまいそうだ。この気持ちを…どうやって名前に伝えればいい?


「どうしよう、俺…。こんな気持ち初めてで…分からないよ…名前は?」

「私と同じ気持ちだったら嬉しいな。あのね、心が暖かくて、きゅってなって、もうどうしようも無いくらいに、むいくんを抱き締めたい大好きって…私は思ってる」

「…全く一緒だ」


握った手を自分に引き寄せて、名前を抱き締める。抱き締め合えば、もっとその気持ちが広がった。こんな感情は初めてで、戸惑ったけれど…名前が一緒であれば大丈夫。感謝の意味を込め、名前のおでこに接吻を落とす。


「でもさ、家族が増えるなら名前…とられちゃうよね」

「え」

「ダメだよ、いくら自分の子どもでも名前はあげない。俺のものだよ」


これからもずっと独り占めさせて。
お願い。


「愛してる」



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