結婚とか子どもとかよくわかんねぇけどよ。
名前とこの先ずっと一緒にいたいって思う気持ちは誰にも負けねぇ。


嘴平之助の場合


彼と一緒に住み始めて、1年が経とうとしていた。山の中での生活と聞いて、最初はどうなるかと思ったが慣れてしまえば案外楽しいものである。

今日も通常の日常だと名前は思っていた。


「伊之助…ッ!?!?うっ…」


突如襲われた激しい吐き気。
しまった、火を通すのが甘かったものがあったのか。と思い、その場に蹲った。
その様子を遠くから見ていた伊之助は、風の如く名前に駆け寄り、「どうした!?」と声をかける。


「伊之助どうしよう、気持ち悪すぎるよ」

「はあ゙ーん?俺がか!?」

「違うよ!!馬鹿!!私の体調が気持ち悪すぎるの!!」


剣士としてすごく強くて、山育ちで動物とも仲良く出来て、名前の事を守ってくれる。伊之助は凄い人だと思うが、こういう変なところで馬鹿が発動されるのである。


「名前、歩けるか?」

「ちょっとキツイ…」

「仕方ねぇ、ちょっと我慢しろよ!!」

「え?」


ふわっと持ち上がる彼女の身体。
気付けば、名前は彼に横抱きにされていた。
「捕まってろよ」と伊之助は名前の頭を撫で、全速力で走り出した。


「まって、怖い怖い!!どこ行くの!?」

「気持ち悪いんだろ!!しのぶに見せるんだよ!!!」

「あぁそっか!」


体調が悪ければ医者に見せるのが1番である。
どうしてそんな単純な事が思いつかなかったのだろう。この時は伊之助の方が賢かった。
しばらくすると、見慣れた屋敷が見えてきて彼女は安堵する。

「邪魔するぞ」と玄関を開け、ドカドカと胡蝶のいる診察室へ足を運んだ。
途中アオイに何か言われた気がしたが、なんせずっとこの横抱きスタイルなのだから名前は恥ずかしすぎて覚えていない。


「しのぶ!!」

「あら、伊之助くんに名前さん。お二人ともお揃いで屋敷に来るなんて珍しいですね」

「名前が気持ち悪いって蹲った!見てやってくれ頼む!」

「蹲る程…それは大変ですね。では、伊之助くんは外に出てて貰えますか?」

「は?なんでだよ、俺が居たっていいだろ」

「ちょっと居られたら困るのです」

「伊之助、私は大丈夫だから」


彼女が伊之助に一言言えば、彼は「分かったよ」と素直に診察室から出ていった。


「随分と彼を、手懐けているんですね」

「コツさえ掴めば」

「コツだけじゃ…無さそうですけど…ふふ」


胡蝶が見る限り、伊之助は名前にゾッコンである。聞けば、蹲った名前を彼の住む山からここまで抱いて走ってきたという。普通ならば1時間程かかる道のりを30分で来たという事は、それほど名前の事が心配だったんだろう。


「では、名前さん。診察を始めます」


どのくらい経ったのだろうか。
廊下には落ち着けず、そわそわしている伊之助がいた。これでもし彼女が、大きい病気だったら…と考えるといてもたってもいられない。

「伊之助くん、中にどうぞ」と診察室から出てきた胡蝶。直ぐ様、名前に駆け寄る。
数十分ぶりにみた彼女は、なぜだか顔が赤い気がした。熱でもあるのだろうか。


「伊之助くん、落ち着いて聞いてくださいね」

「俺は落ち着いてるぜ」


嘘つけと、冷や汗ダラダラな伊之助をみて胡蝶は思う。
でもそんな所も微笑ましい。


「いいですか?名前さんのお腹の中には赤ちゃんがいます」

「????????」


伊之助は考えた。
あかちゃん??アカチャン??赤ちゃん??んー赤ん坊か!!!!


「え!?」

「あら、伊之助くんでもそれは分かったみたいですね」

「私も意外でした」

「な、なめんなよ!俺だってもう大人だっ!!」


名前のお腹の中に、俺たちの赤ん坊がいる…。

伊之助はなんとも言えない気持ちになった。でも彼の顔周りは「ほわほわ」でいっぱいだ。
それを見た名前は、嫌がっていないのだと嬉しく思った。
でも、赤ん坊が居るということは、伊之助は父になるということだ。父になるには名前と結婚しないといけない訳で…


「あ゙ー!よく分かんねぇ!!よく分かんねぇけど、俺はオマエとこの先もずっと一緒にいてぇ!!!結婚とか赤ん坊とかよく分かんねぇけど、一緒にいてぇこの気持ちはよく分かる!!だから、俺に付いてきてくれ!!」


伊之助の盛大な告白は、蝶屋敷中に広がった。結婚とか分からないにしては、それはちゃんとした求婚だった。
名前はびっくりはしたものの、伊之助の精一杯の告白を聞き彼女は笑顔で答えた。


「私も伊之助とずっと一緒にいたいよ」

「当たり前だ!!!山の神が選んだ女なんだからな!!離れることは許されねぇ」


盛大な求婚は、鬼殺隊隊士の中で直ぐ様噂になった。



ここ最近、伊之助は炭治郎達に産まれてくる赤ん坊の話をよくするそうだ。
それはもう父親の顔で。
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