この世で1番愛しいんだ。
我妻善逸の場合
「名前ちゃん!?」
「善逸くん…来ちゃった。はは」
ただ今、善逸は怒る寸前である。
理由は名前が善逸の前に現れたから。
これだけ聞くと、「何処に怒る要素があるのか?」となるだろう。
付け足すと、“具合の悪い“名前が善逸の前に現れたから怒る寸前なのだ。
「大人しくしてなきゃダメって言っただろ?」
「…ごめんなさい」
「う、可愛い。あーもう、ほら帰ろう?」
素直に謝る名前を見て、怒りは瞬時に無くなった。単純である。
鍛錬途中だった善逸は、一度中断をして名前を邸まで送ることにした。
彼女の小さな手を握りしめ、一歩先を歩く。
「今日は夕方には帰るって…」
「うん…でもどうしても善逸くんに会いたくて」
「もう!!そんな可愛いこと言ったって俺が許すと思ったら大間違いだからね!」
でも既に許している彼。
なんだかんだ善逸は名前に弱い。
彼女のワガママは全て聞いてあげたいし、彼女の言動一つ一つが全て可愛いと思っている。結婚して嫁に来たことも、未だに夢だと思ってしまってるくらいだ。
「あ、あのね善逸くん」
急に脚を止める名前。
耳のい良い彼は、彼女が緊張していると気付いた。
「これはなにかあるな」と善逸は名前の方へ体を向ける。
「どうした?」
「具合悪くても善逸くんに会いに来たのは理由があって…」
「うん?」
名前が下を向き、なかなか会話を切り出さない。
何か悪いことが起きるのだろうか。
そんな姿を見て、善逸は緊張と不安で胸が張り裂けそうになっていた。
「名前ちゃん…」
黙り込んでいた名前は、意を決したのか再び善逸と目を合わせ…
『善逸くんとの子どもが身体にいるから体調が悪いの』
と衝撃発言をした。
「やっと言えた」と清々しい感情の名前。
そして、しばらく黙り込む善逸。
その言葉は善逸の思考を停止させるには、十分な威力があった。
まてよ、名前は今…俺に…
ん?体調が悪いんだよね。その理由がえーっと…
「…え?」
「??」
「俺と名前ちゃんの間に子ども??」
「そうなの」
「名前ちゃん、俺、夢から覚めたいよ」
「善逸くん、夢じゃないから覚めないよ」
「そうだよね!ごめんね!ははっ………ええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?」
善逸が理解するまでの所要時間は、約18分。
その間、黙ってじっと待っていた名前は、「今日は早い方だな〜」と雄叫びを上げている善逸に微笑みながら思った。
「え、嘘っ!!え、本当!!どうしよう!!俺、死んじゃう!!!」
「え!?なんで死んじゃうの!!」
「だって!!無理だよ!!嬉しすぎて本当に無理だよ!!!」
「あっ喜んでくれててよかった…」
「喜ばないわけないじゃん!!名前ちゃん!!!本当に…ありがとう…ッ」
「えっ、善逸くん、泣いてるの!?」
「だってぇ…ッ。もう俺、幸せ過ぎて…1人じゃこの幸せ抱えきれないよぉ…ッ」
彼の涙をみて、また彼女も涙を流した。
こんなに喜んでくれるなんて。
本当に善逸を夫に選んでよかったと、名前は改めて思ったのだった。
しばらく泣いた後、泣き止んだ善逸が名前の頬に流れている涙を拭って微笑んだ。
「でも俺は、子どもが生まれても名前ちゃんが1番好きだし愛しているよ」
あぁ、彼のこういうギャップにまた惚れてしまうんだ。