我慢なんて出来ると思う?


「あの、先生…どうかしました?」

「…ここに呼ばれた理由が分からないのか?」

「はい…」


静かな放課後。
校内に生徒が残っていない事を確かめ、煉獄はある人物を社会科準備室に呼び込んでいた。
煉獄が見つめるその先には、この学校の生徒 名前が首を傾げて彼の瞳を見つめ返している。

そんな名前を呼び出したのには理由があった。


「最近…他の男との絡みが増えたように見えてな」


名前の異性問題である。
そもそも煉獄達は、恋人以前に生徒と先生の仲。そこは重々承知ではあるが、最近の名前の異性絡みは度が過ぎているように煉獄は感じていた。


「絡みって…普通に友達と話しているだけです」

「そうだろうか。でも前より確実に増えているように見える」

「でも仕方がない事じゃないですか…?別にわざとやっているわけではないですし…」

「ほう…。あからさまに増えた会話が『わざとでは無い』と君は言うんだな」

「そんな言い方…!」


彼女は知っているのだろうか。
他の生徒と話すふりをして、煉獄は名前を目で追っているということを。
普段から彼女の事を見ているのだ、変化にだって直ぐに気づける。自分の前で頻繁に繰り広げられる、他の男との会話。

凄く気に食わない。

こんな気持ちを分かろうとしない彼女も、気に食わない。


「お前が認めないなら、暫く話すのはやめにしよう。頭を冷やせ」

「一方的過ぎます!私だって…!」

「…?」

「先生が他の女子生徒と仲良さそうに話している姿をみて…沢山我慢しているんです…。それなのに…!」

「!名前っ」


彼女の顔を見て話していた筈なのに、いつの間にか彼女の瞳から涙が溢れ出ていた。
名前はその涙を手荒に拭い、勢い良く準備室を飛び出す。

準備室に残った、彼女の香りが煉獄の心を締め付ける。


「…大人気ない…な」


『嫉妬』
『独占欲』
その言葉は、人間を狂わせる。

我慢だって出来たはずだ。
なのにどうしても歯止めが利かなかった。
自分の欲に正直になった結果、こうして彼女を泣かせてしまったのだ。
更に彼女は、『自分も我慢している』と吐き捨てるように出ていった。

彼女を好きだからこそ、自分の事ばかりで彼女の事をちゃんと見れていなかった。
そんな大人気ない自分に腹が立つ。


「名前…っ!!!!」


名前の一言で頭が冷えた煉獄は、急いで彼女の後を追う。放課後の静まり返った廊下は、彼女が何処に居るのか簡単に把握出来た。
そして愛しいその華奢な後ろ姿を見つけると、全力で彼女を追いかけ、後ろから抱き締めるように名前を捕まえた。

彼女の少し上がった息が、煉獄の腕にかかる。それと同時に、暖かい雫の感触も腕に感じたのだった。
名前はまだ泣いている。


「すまなかった」

「…何がですか…っ」

「大人気なかったと思っている。自分だけ名前に言いたいように言って、君の気持ちは何一つ考えていなかった」

「…」

「どうか許してくれないだろうか。君の気持ちもちゃんと聞かせて欲しい」


抱き締めている腕に力が入る。
そして彼女は何か少し考えた後、煉獄の腕を握り返した。


「みんなの『先生』なのは分かっています」

「…あぁ」

「でも、私だけの『先生』でもあるんです。だから、先生が嫉妬してくれているのはとても嬉しかった。でも、先生が嫉妬しているなら私だってしているに決まっているじゃないですか」

「そうだな…」

「それは、みんなの『先生』だから我慢していたんですよ。だけど、こんな我儘言ったら…普段も私だけの『先生』として意識してしまいま…「いい」

「え?」

「君だけの『先生』でいつも居させて欲しい。だから名前も…」


『俺だけの名前でいて欲しい』


耳元で囁いたその言葉は、彼女の怒りを収めるには完璧なものだった。
そんな煉獄の言葉に名前は腰の力が抜け、その場に座り込んだ。


「だ、大丈夫か!?」

「先生、ズルいです」

「…?む、そうか…?」

「はい。これ以上好きにさせないでください」

「それは出来ない約束だな。君にはもっと、俺の事を好いてもらわないと困る」

「…そういう…とこっ…」

「離したくないんだ」

「うっ…!」


普段、ニコニコしている煉獄からの真顔の甘い言葉は心臓に悪い。


素敵な彼女だけの『先生』
素敵な彼だけの『生徒』


我慢なんて出来ると思う?
(もう、遠慮はいらないから)



リクエスト作品
煉獄さん 嫉妬甘夢
ありがとうございました!
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