棘だらけの宝石を掴んだ


恋というものは甘酸っぱいものだと、世間的には言うだろう。そして、女を綺麗にしてくれる不思議な魔法だとも耳にする。
誰がそんな事を言い出したのだろう。
馬鹿げた話だ、綺麗事を並べないで欲しい。

現実の恋は、残酷で幸せなど無いと知っているのだから。


「煉獄先生」


好きな人を追いかけて、もう3年近くが経った。
先生と生徒の恋。少女漫画の様な禁断の恋を自分はしている。誰にでも優しくて、格好が良くて彼に恋をするのは必然だった。
こんなに素敵ならモテるはずだが、彼を狙っている女は…自分以外居ない。


「どうした!苗字。授業で分からない事でもあったのか?」

「はい、ここの所を教えて頂きたくて」

「うむ、ではこちらに来なさい」


準備室の扉を開けると、提出物の確認をしていたのか、珍しく眼鏡をかけた煉獄がそこにいた。その姿を見て、胸をドキリと高鳴らせる。

本当はこんな問題なんて理解している。彼と一緒に居たいが為に、分からないふりをするのだ。テストで平均以下を取っているのも、彼の補習を受けたいから。

だから彼に嘘をつく。
こんな放課後は今に始まったことでは無い。


「〜であって…。む、俺の顔に何かを付いているか?」

「いえ、何も。ただ見つめていただけですよ」

「君は物好きだな。俺の顔を見ても何も無いだろう」

「そんな事ないです」


このひと時しか、彼の顔を間近で見ることが出来ない。自分にとって、この時間が唯一幸せを感じる時だった。
彼の特別な人になりたい。
約3年間、何度思った事だろうか。


「先生が好きです」


この言葉も何度も言った。
それでも彼には届かない。
笑顔で彼はその言葉を弾き返す。


「そうか!俺も生徒として苗字の事は好きだぞ」

「…っ」


自分に見せる笑顔も、その仕草も話し方も全部全部苛ついて仕方が無い。
『生徒として』
その言葉がどんなに自分を、傷付けているのか知らないでしょう?


もういっその事壊してしまおうか。
この関係も全部。


彼女は立ち上がると、彼のネクタイを掴み、自分の方へ引っ張った。
椅子が倒れる音と煉獄のネクタイピンが落ちる音が準備室に響く。

そしてお互いの唇に、暖かい人肌の感触が染み込んだ。


「苗字っ…」


優しく引き離そうとするその手が憎い。
優しくなんてしないで。
激しく突き飛ばして。
そうすれば諦められるかもしれないのに。

彼の左手が名前の頬に触れる。

いつまでも離れない名前に諦めがついたのか、いつの間にか彼女の唇を受け入れていた。予想外な展開に少し身体がたじろぐが、彼女の手はネクタイを離さない。


「お前は男の趣味が悪いな」


名前の頬に触れる、左手の薬指からは残酷を意味する冷たい感触。


ほら、自分の恋は残酷で幸せなど程遠い。



棘だらけの宝石を掴んだ
(キスは甘いなんてこれも嘘じゃない。)
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