初恋の手引き


どんな女の子は可愛いと思うし、優しくしたいって思う。自分は弱いから、死ぬ前に早く家庭を作りたくて結婚もしたいとも思っている。受け入れてくれるなら、誰だっていい。

鬼殺隊に入ってから尚更、思うようになっていた。自分と歳が近ければ、なんだっていいと出会う女性に声をかけ続けている善逸。こんな姿を育手の桑島慈悟郎に見せたら、また彼は殴って怒鳴りつけるだろう。善逸の女性関係がだらしないせいで、彼の借金を肩代わりしたのだから怒られて当然な事である。


「善逸って女性に声をかける時、本当にその人の事が好きなのか?」


善逸の同期、炭治郎から言われた一言をふと思い出した。痛い所を突かれた気もするが、まぁ好きでなければ結婚もできないだろうし、善逸は迷わず「うん」とその時は答えたのだった。そんな善逸を見て、炭治郎は一瞬困った顔をしたが「そうか」と笑顔を見せたのも思い出す。


「炭治郎って本当に鋭いっていうか…なんかなぁ」


心配してくれるのは嬉しいが、そこまで突っ込まれるとなんだか炭治郎には見透かされていると感じて肩幅が狭くなる。
人の恋路に口は出さないで欲しいものだと、善逸はため息をついた。


……………………………………………


「あれ、そういえばチュン太郎は…?」

こんな朝早くから任務に当たっているのは、チュン太郎が「早く出ろ」というからであるのに、その張本人(?)が居ないのでは話にならない。いつもなら自分の頭の上に居座っているはずだが、今日は見当たらないのが気になった。
臆病者には鳥一匹でも心強いというのに、居ないとなれば尚更、任務に行きたくはない。鳥の癖に生意気である。


「チュン!!チュンチュン!」

「あ、待って!」


心配した矢先、一匹の雀が頭の上に乗ってきた。これは間違いなくチュン太郎だ。呑気なチュン太郎に怒りが込み上げてくる。


「ちょっと!勝手に居なくなるのは良くないぞ!いてっ!!おい、つつくな!!なんだよ!!」


再会したかと思えば、後ろ髪をくちばしで引っ張れる。善逸の怒りは、完全に届いていない。そして引っ張る力が強すぎて、髪の毛が無くなりそうだ。


「まじで痛いって!!なんだよ、何か後ろにあるの…か…!?」


チュン太郎に引かれるまま、後ろを振り向くとそこには一人の女性が立っていた。
善逸は驚き、思わず言葉を失う。こんな所をずっと見られていたなんて穴があったら入りたい。


「あ、えっと、その変な所見せて…ごめん!」

「え?いや、私こそ驚かせてごめんなさい!その子が木に引っかかってて、助けたらいきなりここに連れてこられて…」

「は!?お前、引っかかってたの!?」

「チュン!!(うるさい!)」


またチュン太郎につっつかれる善逸。
そろそろ出血しそうな勢いである。可愛い女の子が目の前にいるのに、おかげでいつもの調子が出ない。いつもならすっ飛んで行っているはずなのに。一生チュン太郎を恨むと決めた善逸であった。


「その雀、可愛いですね。友達ですか?」

「あ、いや、友達っていうか…なんていうか」

「ふふ、大切なんですね。その子をここに連れてこられて良かった」


彼女の笑顔にドキリと一瞬高鳴った胸。目の前にいるだけで、なんだかクラクラするのにそんな笑顔を見せられたら爆発寸前である。
しかも雀を助けたというのだから、心優しい女性であることは間違いない。


「あ、ありがとう!!ここに雀を連れてきてくれて…」

「お易い御用です。それではまた」

「ま、まって!!」


思わず彼女の手首を掴んだ。その行動にしまったと思い、パッと直ぐに手を離す。いつもなら嫌がっている女性に引きずられても、離さないのに今日は本当になんだか変である。

彼女は不思議そうに善逸を見ていた。
止めてしまった理由を必死で探す善逸。


「!お礼…したいんだけど」

「え?そんな、必要ありません!雀をここに連れてきただけなので」

「ここに連れてきてくれなかったら、俺は仕事にも手をつけられなかったかもしれないんだ。だから…その」


胸が高鳴ったのを思い出し、いつものように上手く話す事が出来ない。こんなに女性に緊張するのは初めてだった。どうか彼女にこの緊張が伝わっていないように願うばかりである。しかし彼女にはバレバレであり、あたふたと戸惑っている善逸を見て、彼女はくすりと笑った。


「私、この先の街の甘味屋で働いているんです。良かったらまた…会いに来てくれませんか?」

「も、もちろんだよ!」

「良かった。またお会い出来るの楽しみにしてます」

「行く時、文でも出すよ。そ、それと君の…名前って…」

「名前と言います」


『名前』彼女にぴったりな名前だ。そしてまた会ってくれる、それが本当に嬉しかった。貴方の名前は?と首を傾げ見つめる名前。その姿にまた胸を高鳴らし、急いで自分の名前を告げた。


「善逸さん…覚えました。また、早くお会い出来るといいですね」

「お、俺も早く君に会いたい」

「ぜひ」


心地よい風に髪を揺らしながら、彼女は去っていった。彼女の声色が耳の良い善逸の中で、鮮明に響いている。
そして何より、彼女の音が今まで出会った女性の中で1番素敵なものであった。

この気持ちは初めてでよくわからないけれども、多分そういう事なのだろう。


「これが…本当の一目惚れ…」


恋がこんなにドキドキで、暖かいものとは知らなかった。

もっと君の事が知りたい。



初恋の手引き
(その1 君と出会う事)
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