しかばねになっても
「宇髄先生の顔が素敵すぎて辛い」
放課後、教室。
自分の席から見える美術室に、名前はくぎ付けであった。特に美術に興味がある訳ではなく、ただそこに名前の想い人、宇髄天元がいるのだから目が離せないのだ。
この教室も最初は、階段から遠いしドアの建付けが悪いなどで良く思って無かったが、美術室が見えるという訳でそんな事はどうでも良くなっていた。
「また見てるの?」
「うん、もう目の保養。好き。大好き」
「本当に好きだねぇ…そのまま机で寝るなよー」
「わかってるって」
友人に対してこうは言ってるものの、ここで居眠りした回数は数え切れない程ある。
今日もまた、宇髄を見ながら暖かい日差しで睡魔に負けたのだった。この癖は治りそうにない。
「…きろ」
「んー…」
誰かが夢の中で呼んでいる気がする。
何処かで聞いた事ある声だが、その顔は見ることが出来ない。
まだ眠いからもう少し寝かせて欲しい…のに。
「起きろって言ってんだろ!!」
「きゃぁぁぁ!?」
どうやらそれは夢の中ではなく、現実で起こっていたようだ。驚き、椅子ごとひっくり返った。身体が痛い。
誰なんだ、こんなに大声で起こす奴は…
「よぉ、ド派手にひっくり返ったな」
「うわ!!!!!無理!!」
「はぁ!?テメェ起こしてやったのに無理って何だよ!!」
それは毎日こっそりと見ていた、あの宇髄が名前の教室に来ていたのだった。唐突過ぎて思わず顔を隠す名前。本当に眩しすぎて直視出来ない。
まさか自分の想い人がこんな近くにいるなんて、夢のようである。
「何で顔隠すんだ」
「教えません」
「…イラッ」
「あなたの顔が眩しいからです」なんて、言えるはずがない。遠くから見つめるので精一杯なのに。
そんな名前を見て、何かを思ったのか彼女の前の席に腰を下ろした。
「いつも美術室をガン見してる奴が何言ってんだよ」
「…!!??」
宇髄の言葉で、顔を覆っていた手を思わず離してしまった。
目の前には、あの極上な宇髄の顔が近くにある。ダメだもう倒れそうだ…しかもいい匂いがするとは色男過ぎる。
「やっぱお前か」
「…カマかけましたね…」
「カマっつーか、心当たりがあったんだよ」
ひらひらと名前の前で手を振れば、ニヤリと微笑む宇髄。もう返す言葉もない。
ここまでバレてしまっては、もう美術室を見つめることは出来ない。また明日から、ただの階段から遠い、ドアの建付けが悪い教室に逆戻りだ…どう生きていこう。
「お前、俺の事好きなの?」
「す、好きってゆーか…顔が…」
「顔かよ!」
「もう喋らないでください」
どこまで恥を晒せば許されるのだろうか。
バレないようにごっそりと見ていたのに、「好き」もお見通しな訳だ。もう合わせる顔がない。
自問自答している名前を見つめ、宇髄の悪戯心に火がついた。
またもやニヤリと笑うと、名前の顔を自分の方へ向かせ、鼻が付きそうな距離まで接近した。
「ほら、満足するまで見やがれバーカ」
死亡のお知らせである。
しかばねになっても
(この顔を何とかしてください)