真夜中のハンターは命懸けである

たんぽぽのお世話も済み、山の中を彼女は散策していた。

夜も遅い時間であり、照らすのは月明かりだけ。鬼の姿は確認できないが、気配だけで鬼の居場所は分かっていた。けれども鬼は出てこない。
彼女が強いと、また鬼も気配で分かっていたからだ。
いつもならそんな鬼を見つけては首を斬る名前だが、今回の狙いは鬼ではないので無視をしている。

時々、人の叫び声が木霊となって山に響いた。
また一人、また一人と鬼に食べられていくのかと思うと本当に居た堪れない。
「直ぐにでも助けに行きたい」そう思いながら、日輪刀の柄を握ったり離したり繰り返している。しかし、お館様との約束を破るわけにはいかない。

叫び声を聞く度に名前は“あの時”を思い出していた。それは彼女にとって悲しい過去であり、忘れてはいけない出来事。


「やはり悪い鬼とは仲良くできないよ。カナエちゃん」


今は亡き友人の名前を呟き、空を見上げる。
彼女は何処かで見てくれているだろうか。

気付けば藤襲山唯一の川へ足を運んでいた。
夜に流れる川の音はより一層、名前の悲愴感を溢れさせた。
「少しは休まなければ」と川のほとりへ行き、水を口に含む。
乾いた喉に川の水が気持ちよく飲み込まれていった。

濡れた唇を袖口で拭い、川周辺を見渡してみると、


「…え?猪?え?」


…猪が水浴びをしているではないか。
いや…猪“もどき”…?
頭が猪で体が人間の未確認生物(?)を月明かりを頼りに、横目でじっと見つめてみる。
何故だか分からないが、息をしてはいけない気がした。


「水浴びは最高だぜェ!!!」

「し、喋った!!!!あ!!!」


しまった。
咄嗟に口を塞いだが、猪と目が合う。
とりあえず微笑んで目線を逸らした。
ここから逃げなければ。水を飲むために外していた日輪刀を腰に差し戻し、一目散に走って逃げた。


「テメェなんだコラ!!!!待ちやがれ!!」


やっぱり一筋縄じゃいかないですよね!?
後ろを振り向けば、物凄い勢いで追い掛けてくる猪もどき。


「嫌だ嫌だ嫌だ!!!あんなのに殺されるのは勘弁!!!いやぁぁぁ」

「あんなのってなんの事だ!!!テメェ俺の事言ってんじゃねぇだろうな!!」

「やだ!!ごめんなさい!!」

「はあ゙ーん!?ナメやがって!!!ぜってー捕まえてやるからな!?」

「来ないで!!!!」

「猪突猛進!!!」



ここから彼と彼女の追いかけっこが始まったのだった。




真夜中のハンターは命懸けである
(本当に無理だって!!!)
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