道端の蒲公英は風に左右されやすい

「藤襲山」
そこは鬼殺隊剣士になる為の最終選別が執り行われる山である。
山には鬼殺隊剣士が捕らえた鬼が閉じ込められているが、山自体が鬼の嫌う藤の花で囲われている為、山の外には害はない。

花柱である彼女も、何年か前に訪れていた。
その記憶から、懐かしさと共にこれから行われる最終選別の厳しさを思い出していた。
ただ、今の彼女には藤襲山の鬼なんぞ目を瞑ってでも切れる奴らだが。


「うわーすっごい!こんなに鬼殺隊に入りたい子達がいるなんて!」


名前は想像していた何倍もの参加者に驚いていた。
集合場所の中心部から少し離れた場所にいた彼女には、参加者全員の顔が見える。
同じ志で仲間になろうとしている子達に、彼女は無事を願った。
どうか…ここに帰ってきますように。

そんな中、ある男の子が目に入った。


「狐のお面か…懐かしい」


名前が最終選別へ参加した時も、狐面をした参加者がいた。
きっとどこかの育手が渡しているんだろう。
ただ、7日後にその姿は見る事が出来なかったが。


「皆さま今宵は最終選別にお集まり下さって、ありがとうございます。この藤襲山には鬼殺隊の剣士様方が生け捕りにした鬼が閉じ込めてあり、外に出ることは出来ません」

「山の麓から中腹にかけて、鬼共の嫌う藤の花が一年中狂い咲いているからでございます」

「しかし、ここらか先には藤の花は咲いておりませんから鬼共がおります。この中で7日間生き抜く。それが最終選別の合格条件でございます」

『では行ってらっしゃいませ』


開始の合図と共に参加者たちは山の奥へと足を進めた。
残っているのは名前と産屋敷の子供達だけ…ではなかった。

黄色く目立つ髪色の少年が草むらにポツンとしゃがみこんでいたのだ。
部外者?いや、腰に日輪刀を下げているから参加者だ。
それにしても草むらに黄色い髪色とは。
まるでたんぽぽのようである。


「ねぇ」

「ひぃ!!な、な、な、なんだよ!!!いきなり声掛けんなよ!!!びっくりするだろッ」

「いきなりって、ずっと後ろにいたけど…」

「なんで後ろにいるんだよッ!俺はもう死ぬの!!?わかる!?」

「分からない」

「いやだから…!?」


ずっと背中を見せてた彼が、やっと名前の顔を見た。
泣きべそをかいてた男の子は一瞬にして涙が止まり、鼻水を垂らしながら笑顔を見せた。
なんだこの変わり様は。
さっきまでの雰囲気は「鬱」という感じに対し、今の彼は「デレデレ」だ。


「女の子だとは知らずにごめんねぇ〜!カッコ悪いとこ見せちゃったッ」

「さっき、もう死ぬって言ってたけど…」

「え?あぁー俺ってものすごい弱いし、ここに来たのもじいちゃんに引きずられてきただけだし」

「そうなの?でもその『じいちゃん』って言う人が育手なんだったら、きっと君は大丈夫って思われてるから連れてきたんじゃないかな」

「違うよ、俺がずっと泣きべそかいてて弱いから度胸試しで無理矢理連れてきたんだと思う」


名前は相手の技量など雰囲気で分かる。
彼は『弱い』と自分で強く言っているが、弱くはないと思う。ましてや、これから強くなっていく剣士だとも思った。


「君、名前は?」

「俺?我妻善逸。君は?」

「えっと…、苗字名前」

「名前ちゃんか〜よろしくね!」

「よろしく。我妻くん、あのさ」

「善逸でいいよー!なに〜?」

「善逸くんなら大丈夫だよ」


彼なら大丈夫。
その根拠は名前の柱人生で培った勘が、そう言っている。
涙痕と鼻水を手拭いで拭ってやり、頭を撫でた。時透の時といい、名前は頭を撫でるのが好きだった。


「えッちょッえ?俺ヤバいよ!!!頭撫でるって事は婚約!?名前ちゃーん!!結婚してくれ!!!」

「色々と語弊があるけど…んー、善逸くんがこの7日間生き抜いて、無事鬼殺隊に入り、柱になれて、私が結婚してなかったらしてもいいよ」

「えぇぇぇ!?俺、死ぬんだよ!?柱って!!え、じいちゃんと同じってこと!?!?無理無理無理無理無理」

「大丈夫大丈夫!善逸くんは死なないよ!ほら!未来が楽しくなったね!」

「嘘だぁぁぁぁ!!!そんなこと言うなら俺が死んだら責任とってね!?」

「はいはい、とるとる。分かったら、さっさと行ってらっしゃい」

「くぅう!!約束だよ!?!?」


怒りながらも彼の周りはピンクのふわふわでいっぱいであった。
やっと山に入ろうとした直後、善逸は再度名前の方へ振り返った。
また文句を言われるのだろうか。


「あのさ名前ちゃん」

「なに?」

「どうして名前ちゃんは、大丈夫なの?」

「…?」

「いや、俺さ昔から耳がいいんだ。相手の心音とか聞こえるから何となく気持ちは分かるんだけど…名前ちゃんからは、他の参加者とは別の心音と呼吸がしてて…ちょっと気になっただけ」

「きっと生き残ったら分かるよ。お互い7日後に会おうね」

「うーん。分かったよ!」

「あ、善逸くん、いい事教えてあげる。この藤襲山はその入口を入れば確かに藤の花は咲いてないけど、山を抜ければ藤の花が咲いてるからそこを目指せば、鬼は来ないの」

「!!!なるほど!!名前ちゃん、本当にありがとう!!結婚しようねぇ!!」

「将来、条件が揃ったらね」


出会った時とは大違いの笑みを浮かべ、藤襲山へ彼は消えていった。


「名前様」

「あ、これはこれは輝利哉様、かなた様」

「お話は聞いております。気をつけて行ってらっしゃいませ」

「ありがとうございます。あ、そうだ…さっきの我妻善逸くんの鴉はあの『うこぎ』がいいと思いますのでご検討ください」

「ご意見ありがとうございます、お伝えさせていただきます」


産屋敷の子供達に挨拶をし、彼女もまた藤襲山へと姿を消した。



道端の蒲公英は風に左右されやすい
(あれ、でも本当に将来結婚したらどうしよう)
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