予感が眠らせてくれない

「よく考えろ、ただの馬鹿だ本当に」


嫁の作った味噌汁をすすりながら宇髄は言い放った。
先程の任務終了後の帰路にて名前が呟いた言葉。

「最終選別に行く」

その言葉の意味を理解するのに、1時間はかかってしまった。考えるのに夢中で、気付けば自分の家の座敷に座っていたくらいだ。

その張本人は宇髄の言葉には触れずに、嫁たちが作った食事を黙々と食べ進めている。本当に呑気なやつだと宇髄はため息をついた。


「名前さんはいつでも美味しそうにご飯を食べてくれるから嬉しいです」

「雛鶴さん達のご飯、本当に美味しいです!毎日食べたいです!」

「名前さんが毎日家にいると楽しそう!」
「あたし達はいつでも大歓迎です!」

「お嫁さん達、なんていい人達なんでしょうか…」


宇髄は何となく気付いていた。
名前の宇髄への好感度が、宇髄<嫁 ということを。
その好感度が逆になればいいのになんて、本人には絶対に言えない。さっきから彼女に振り回されっぱなしの宇髄は、いつもより何十倍の疲労が身体に溜まりつつあるのであった。だが、真実を聞くまでは下がるわけにはいない。


「名前、そろそろちゃんと話せ。遊びで行こうなんぞ思っているんだったら、今すぐ止めろ」


部屋が一瞬で静まり返った。
少し怒りを露にすれば、さすがの名前も宇髄が本気なんだと察した。
握っていた箸を箸置きに置けば、彼女は宇髄へと視線を向けた。


「私は柱として当然の事をするまでです」

「だからそれを説明しろよ」

「はぁ…いいですか?私たちは忙しいを理由に若い子達をある意味見捨てているのです。実際に、ここ最近で何人もの低階級の隊士達が命を落としています。強い者が弱い者を育てる。強い者が弱い者を護る。違いますか?」


真っ直ぐな瞳で見つめられた彼はなにも言えず、ただ見つめ返しているだけだった。
なんとでも言い返せるだろう。ただ、名前の放った言葉に対して言い返すのは全て言い訳になってしまうと宇髄は気付いていた。


「計画はよく行き届いた適切なものであることが第一です。それが確認出来たら断固して実行します」


それに。
彼女は言葉を続けた。


「天元さんには認めて欲しいんです。一応、仲は良いと私は思っているので」


名前は宇髄に微笑んだ。
その表情を見た彼は悔しそうな表情を一瞬したが、「はぁ」とため息をつき両手を上げた。


「ド派手に論破してくれるじゃねーの。この天元様もお手上げだ」

「実は心配してくださってるんですよね。優しい人です」

「うるせ、さっさと見学でもなんでも行きやがれ」


そう、名前に言えば、いつの間にか全ての料理を空にした彼女はまた微笑み「ご馳走様」と宇髄の嫁たちに挨拶をし帰って行った。
彼女の背中が見えなくなるのを確認すると、もう夜明けも近いせいか一気に眠気に襲われた宇髄。


「ちょっと一眠りするわ」

「では、時間になりましたら起こしますね」

「頼む」

「…あ、天元様」


寝床へ行く足を止めて彼は振り向く。
3人の嫁たちは彼を見て、ずっと微笑んだままだ。

「な、なんだよ」

「天元様も素直じゃないんですから」

「は!?」

「女の勘は鋭いんですっ!」

「…」

「頬を赤らめてた天元様、可愛かったなぁ」
「「「私ちは4人目大歓迎です!」」」

「お前ら…」


もう何度ついたか分からないため息をまたつき、今度こそ寝床へと向かった。
予め敷いてあった布団に身を休ませ、ゆっくりと彼は瞳を瞑った。

しかし、色々な事が今日はあり過ぎたせいか中々眠らせてはくれなかった。

「あぁ、クソっ!」



予感が眠らせてくれない
(何かあいつの身体に起こったらどーすんだ)
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