ありったけをあげよう

「無一郎、名前カラダ」

「名前から…?」


名前の鴉が時透の邸を訪れた。
彼女が狐の面を修復するよう頼んだ相手は、霞柱の時透であった。
彼の趣味が紙飛行機を作ることであるため、手先が器用だと思ったのだ。
修復の内容の文を読み終えると、時透はため息をついた。


「僕、別に直し屋じゃないんだけど」


けれども彼女のお願いを断れないのも事実だ。名前が出発前に作ってくれた、ふろふき大根のお礼もある。彼女のおかげで大量にあった大根が自分の好物へ変わった。
そして何より、あのふろふき大根が美味し過ぎて忘れられなかった。
修復作業なんてやった事はないけれど、一つ一つ紙飛行機を折るように丁寧にやれば出来るかと時透は思った。

鴉から受け取った面の欠片を見てみると、運が良かったのか綺麗に割れている。
繋ぎ合わせて確認したところ、欠けている部品は無いようだ。
とりあえず、材料集めを鴉に頼む。自分で集めるには、何を集めたのか忘れてしまいそうで躊躇った。
鴉は少し文句を言ったが、時透がひと撫ですれば気をよくして飛んで行った。単純な鴉である。


「名前、早く帰ってこないかな」


鴉が飛んで行った空を見上げる。
彼女と出会ったのは産屋敷の屋敷に来てから少し経った時であった。
記憶を直ぐに忘れてしまう時透に、ほぼ毎日会いに来ていた。会う度に彼女の名前を聞いていた時透に、名前は嫌な顔をせず名前を教えていた。
その努力が実ったのか、時透は産屋敷家の次に名前の名前を覚えたのだ。

自分の邸を持った時も、名前は駆けつけてくれ一緒に準備をしてくれた。少し世話焼き過ぎる部分もあるが、そんな所も含めて時透は彼女の事が好きである。
最初は姉として彼女の事を好きでいたけれど、徐々にその感情は違う物に変わってきた。

もし、名前が自分だけに優しくしたら。
もし、名前が自分だけに微笑んだら。

もし…名前が自分だけのものになったら…?

それは時透の初恋に変わっていた。
感情は一日で忘れてしまう。けれども、名前の名前を口にする度に再び胸の高鳴りが始まり、思い出すのだ。
最近は空を見て名前のことばかりを考えている。

恋は面倒くさそうだ。


「モッテキタワヨ」

「え、あぁ…ありがとう」


しばらくしてから鴉が戻ってきた。
鴉は嘴で持っていた風呂敷を時透に渡す。
受け取った風呂敷を開けてみると色々な材料が揃っていた。


「面作リノ剣士ノ鴉二、材料ヲ聞イテキタワ。コレダケアレバ大丈夫ミタイ」

「よくこんなに集められたね。凄いや」


出掛ける前と同じように撫でてやれば、また気を良くする鴉。これで彼女もしばらくご機嫌だろう。
時透は直ぐに作業へ取り掛かった。
集中さえすれば数日で終わる。
でも…次の日に忘れてしまったら?自分の物忘れの癖を思い出す。


「ねぇ…この作業忘れたら思い出させてくれない?」

「エ、アタシガ?」

「…しか、いないでしょ…」

「メズラシイワネ、ソンナニ真剣二ヤルナンテ」

「約束…だから」


名前が帰ってきたら見せてあげるんだ。
そしたらきっと、彼女は笑顔で喜んでくれるだろう。誰かの為に何かをやるのは初めてだった。彼も日々成長している。
そんな楽しそうにしている時透をみて鴉は思った。

「アノ小娘ヤルジャナイ」



ありったけをあげよう
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