全てを飲み込むにはまだ青い

実弥さん
お元気ですか。2日ぶりですがお変わりありませんか。
この間はおはぎ、ありがとうございました。
最終選別が終わったらまた食べたいです。

そう言えば、この間2人の参加者の話をしましたが実は3人に増えました。
骨のある子たちが沢山で嬉しいです。

あと少しで帰れますので楽しみにしててください。

実弥さんが大好きな名前より


「よし、これでいいや」


名前は2日前に不死川と約束をした文を書いていた。彼との約束は絶対である。
約束を破ったその時には…何時間説教が待ち侘びているのであろう…。
考えただけでも恐ろしいものだ。

最終選別終了まで残り1日となった。
案外あっという間の期間だったと思い返してみる。
柱になってから、また最終選別へ参加してみると本当に初歩的な事なんだと分かった。鬼殺隊になる前の時は、あんなに苦労したのに。長い年月をかけて、それほど自分が強くなったと言うことだろう。


「名前、文ダ」

「え?もう返事きたの?」

「不死川二渡シタラ、ソノ場で返事カイタ」

「あ、そうなんだ」


鴉の足に着いている文を受け取る。
お礼の木の実をあげれば、鴉は喜んで嘴で突っついた。そんな鴉の頭を指先で撫でる。

早速受け取った文を広げると、それは不死川らしい返事であった。

『だから簡単に大好きとか書くんじゃねェ
不死川実弥 』

文まで怒ってるとか更年期だろうか。
戻ったら、栽培している花のお茶でも飲ませよう。きっと心が落ち着くはずだ。
おはぎも用意すれば完璧である。

そんな彼が書いた文にもう一度目を通す。
荒っぽい性格の不死川だが、文字は繊細で綺麗なものである。彼の優しさが現れているようで、名前はくすりと笑った。


「愛されてるな〜」


「大好き」という言葉でこんなになるのなら、彼に抱きついたらどうなるのだろう。
ここで好奇心な性格が現れる名前であった。


……………………………………………



彼女を見つめている1人の参加者がいた。今の場所に名前が来てからずっと見つめている。その視線に名前も薄々気付いていた。そして…その視線が誰かも。

名前は歩きを止め、視線を感じる木の影へ声をかけた。


「久しぶり」


声は相手に届いたのか、地面に落ちていた枯葉がカサカサと音を立てる。きっと驚いてビクリと身体が動いたのだろう。
そんな木の影から、長い髪が少しだけ見えた。やはり…あの子であったか。

その人物は静かに姿を表した。
彼女の周りには何処からやってきたのか、蝶が舞っている。自分の記憶からは少し歳をとった少女が、名前に向かって微笑んでいる。その表情からは何も読み取ることは出来ない。お互いその場で立ち尽くした。

そんな状態を破ったのは、意外にも少女の方であった。指で銅貨を弾き、手の甲でそれを受け取る。その行動は名前も見慣れたものであった。銅貨を彼女は見つめ、次に名前を見つめる。そして、綺麗な顔の唇を動かした。


「師範」


そう呟いた少女。表情は相変わらず変わらない。名前は驚き、目を見開いた。
まるで何かを訴えかけるようにも見える彼女の瞳は、自分を捉えて離さない。

あぁ、この子はまだ…


「私はもう貴方の師範ではない」


その言葉と同時に名前は山奥へ姿を消した。

彼女が消えた後も…少女は微笑み続けていた。



全てを飲み込むにはまだ青い
(まだあなたに会いたくなかった)
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