彼女の名前は名前と言った。
胡蝶カナエの死後、直ぐに花柱に就任した。
彼女は胡蝶カナエの友人らしく、時々一緒に居るところを目にしている。
きっと彼女も辛かっただろう。けれどもそんな素振りを見せず、名前はひたすら明るくあの時は振舞っていたのだ。
「よォ…」
「不死川、遅かったな」
「2発説教して来たからなァ」
「こりゃ過保護なこった」
そんな昔のことを思い出しながら、不死川を自分の邸で待っていた宇髄。
不死川に名前の事を伝えた途端、彼は血相を変えて宇髄邸を飛び出して行った。
てっきり名前は不死川に言っていると思っていたものだから、軽い気持ちで言った後の不死川の変わり様といったら尋常ではなかった。
「それで?元気だったか、アイツは」
「あァ、上手くやってるみたいだぜェ」
「昔から人の面倒を見るのが好きだよなぁ」
「そうだな…」
「名前もだが、お前もだ」
「テメェも名前の事になると世話焼きだろうが」
「じゃお互い様だな」
二人揃って宇髄の嫁が淹れた茶をすする。
きっと二人の頭の中は名前の事でいっぱいだろう。本当は今すぐにでも連れて帰りたいと思っているのだから。
そして、そのまま彼女を側に置ければどんなに良いことだろうか。
彼女に恋をするのは必然だった。
よく笑い、よく話し、最後は彼女につられて笑っている。彼女はまるで花のようだ。
…花の呼吸を使うからとかそんなのではなくて。
好奇心に任せ身体が動くのはどうかと思うが、決して彼女は間違いを犯さない。賢いくせに人に頼るとこもまた彼女に惚れる理由の1つだ。
「アイツがどっちか選んだら潔く手を引けよ」
「…嫁三人居るってのにまだ足りねェのか」
「まぁーな」
「屑野郎にも程があるぜ」と不死川はため息をついた。しかし、ここで下がらないのが宇隨である。
そもそも宇髄の結婚は決められた結婚だった。
嫁三人の事は大切にしている彼だが、彼女はまた別の感情であった。
宇髄本人が人生を共に歩みたいと思った女が名前だ。それは嫁達も承知している。
嫁達も宇髄の事が大切だからこそ、宇髄には幸せになってもらいたいと思っていた。
「一方通行って地味にめんどくせぇのな」
「テメェの恋の話なんぞ聞きたァねぇーよ」
「不死川だって、派手に恋してんだろ!」
「うるせェ黙れ」
「幸せなんて望んだら負けだ」と不死川は最後に呟いた。彼は自分の幸せより他人が幸せならそれでいいと思っている。
そういう優しいヤツこそ幸せになるべきだ。と宇髄は思っているが、名前であれば話は別だ。
本当に不器用な男である。
お互いがお互いを認め合ってるからこそ、譲れない恋模様なのだ。
花の名前は永遠に憶えておこう
(君は俺を照らす一輪の花)