「あのーう…なぜ…ここにいらっしゃるのでしょうか…」
「名前が文を寄越さないからだァ」
「あれぇ…私…実弥さんと文通しておりましたっけ…」
「急にテメェが消えたからだろォ!!」
「ひぃ…」
物凄い形相で睨んでくる目の前の男性は、風柱こと不死川 実弥である。
歳は同い歳であるが、不死川の方が先に柱になっているため敬語を使っている名前。
元花柱の胡蝶カナエと仲良くしていたのがあれなのか、その友人の名前をほっとけない不死川であった。
それはもう…過保護過ぎるくらいに。
「それで?テメェ…話を聞いたら宇髄には相談したらしいじゃねぇか」
「いや、そのそれはあれなのです」
「言い訳無用。前にも言ったよなァ?テメェは直ぐに好奇心で動くから俺に相談しろって…」
「はい、言いました」
「今回のは聞いてねぇぞォ…(ピキッ)」
怖すぎる。
今、ピキッって何か聞こえた。
山の中で正座をさせられている名前に、不死川の説教が2時間続いたのであった。
…………………………
「ほら、食え。おはぎだァ」
「わー!!実弥さんの差し入れのおはぎ、大好きです」
「…そうかよォ…」
説教後、木陰に座って久しぶりの不死川と他愛の無い話で花を咲かせていた。
名前の邸に来る時もそうだが、必ず不死川は差し入れのおはぎを持参する。
大体は説教から始まるので、説教後のアフターケアとでも言おうか。彼女の機嫌をとるための甘味ということで自分の好物のおはぎを渡しているのである。
彼女の好物ではなく、自分の好物っていうのが謎であるが。
今回は中でも大切にしている名前が、自分に相談もせずに馬鹿な事をしていると宇髄から聞き、飛んできたのだ。
あれだけ怒っていたのに、今では隣で嬉しそうにおはぎを食べている彼女を見つめては笑みが零れている。
「それで?どうだァ…骨のありそうな奴はいたか」
「そうですね…、今のところ2人ですかね」
「ほォ。名前が言うってことは相当だな」
「まぁ勘ですけど。でも、確実に最終選別は生き残ると思います」
不死川は彼女の勘を信用していた。
行動こそ、好奇心で動き危なっかしい部分もあるがその裏には必ずなにか考えがある。
戦闘の時もそうだ。
何度か名前と戦闘に立った事があるが、その時の戦闘力と観察眼には不死川も驚かされている。聞けば勘を使っていることもあると言うのだから信じないわけにはいかない。
「本当に今回の件は、実弥さんに相談しなかったのは申し訳ないと思ってます」
「分かりゃいいんだよ。2日に1回は文を寄越せ」
「それは…頻繁です…ね??」
「あ゙?」
「はい!!!承知致しました!!!」
「最終選別はあと3日で終わるのに」と名前は思ったが、自分を心配している不死川にそんな事は言えず素直に従った。
彼は本当に面倒見がいい。
なにかあれば直ぐに駆け付けてくれるし、彼女が困った時も的確な助言をしてくれる。
そんな彼を本当に名前は慕っており、同い歳ながらも兄のように接していた。
「実弥さんが居てくれなきゃ困るなぁ本当に」
「!!」
思わず口に出す名前。
一瞬、「しまった」と口を塞いだが、特に怒らせるような言葉ではないと思い「まぁいいか」で片付ける。
でもよく考えると結構な発言ではないだろうか。
不死川の様子を伺うと案の定、顔を赤らめている彼が隣にいた。
「い、嫌な気分でしょうか」
「うるせェ、黙れ」
いつも完璧な不死川を見ている名前には、その姿は新鮮でなんだか微笑ましかった。これだから彼がどんなに怖い、どんなに酷いと噂があっても全部嘘だと思える。
まぁ少し、行き過ぎた行動もたまにはあるが。
「実弥さん、これからも慕わせていただきます」
「…好きにしろォ」
「はぁ…好きです…」
「そういうのを簡単に口にするんじゃねェ!!」
「ひ、ひぃ!!」
そしてまた本日2回目の説教が始まったのであった。
不思議と自然に元通りです
(怒られても仲良しだもん)